新しい時代

再生可能な都市システムを構築することは、相互に関連する現代の多くの危機を解決するための鍵であるとハーバート・ジラルデットは書いています。

翻訳:沓名 輝政

 人類は今、存在の面で矛盾に直面しています。私たちは自分たちのために都市の未来を築いているのに、現在の形での都市化は人類と自然界の未来そのものを脅かしているのです。都市の成長は、世界中で止まることのないように見えます。この歴史的傾向については多くのことが書かれていますが、都市化する世界の環境への影響についてはほとんど議論されていません。

 20世紀は「大加速」の時代でした。化石燃料エネルギーへの豊富なアクセスと新自由主義グローバリゼーションのルールにより、何十億もの人々の生活と行動パターンが一変し、限りある地球上での資源使用量がますます増加しました。この時代は「都市の時代」とも呼ばれています。これまでにない規模の何千もの新しい都市が地球上に誕生し、それらは人類の偉業として広く称賛されていますが、中でもエドワード・グレイザーは著書『The Triumph of the City』の中で、このように述べています。

 都市部は、世界のGDPの80%を生産する世界経済の原動力です。経済取引や社会的交流、都市を中心としたコミュニケーション、輸送、貿易システムの中心として、世界の都市は、魅力的で惹きつけられます。都市は、かつてないほど人をつなぐハブとなっていて、現在の見通しでは、2050年までに、人口の4分の3が都市部に集中することになるでしょう。何百万人もの人々が暮らす現代の都市は、確かに驚異的な事業です。これらの都市は、イノベーションの中心であり、経済活動の中心であり、優れた教育や医療サービスの中心でもあります。投資家が都市を好むのは、一人当たりのコストが低く、多くのサービスを提供しているからです。政府が都市を好むのは、信頼できる税収源だからです。

 しかし、これまで以上に大きく、資源を大量に消費する都市が増えていく中で、このような広範囲にわたる都市化が、都市に住む人々の幸福と地球環境の両方にどのような影響を与えるのかを問う必要があります。多くの都市問題が山積みです。都市は世界の陸地の3、4%にしか建設されていませんが、そのエコロジカルフットプリントは地球上の生産可能な土地面積の多くを占めています。化石燃料の燃焼による大気汚染の問題は、世界の多くの大都市で広く報告されており、地域住民に重大な影響を与えています。都市のエネルギー需要とそれに伴う排出物は、気候破壊に大きな影響を及ぼします。都市は最終的に、自らの成功の犠牲になる危険性があります。都市は、地球のエコロジカル・フットプリントと環境外部性[経済主体の行動が他の経済主体の効用や利潤に影響を与え、影響を及ぼす主体がその対価を払わなかったり受け取れなかったりするとき、外部性が生じているという]をますます大きくしています。海面が上昇すれば、豊かな国や貧しい国を問わず、世界中の何百もの都市が浸水することになるでしょう。私たちは、地球の環境収容力の範囲内で、資源効率の高い都市システムを作れるのでしょうか。

都市の新しい科学

 近年、都市の持続可能性について活発な議論が行われています。豊かな国では、都市部の人々は農村部の人々よりも効率的に資源を利用しているという議論がよくなされています。特に、農村部の人々は、交通機関や一戸建て住宅の冷暖房に多くのエネルギーを使用しています。そのため、都市の生活は農村の生活よりも持続可能であると主張されています。

 しかし、発展途上国では、まったく異なる状況が見られます。中国とインドの研究によると、村から都市に移った人々の資源消費量は、通常4倍に増加します。その理由は明白です。伝統的な農村の生活は、地元で入手可能な再生可能資源に依存していました。一方、都市では、化石燃料をはじめとするさまざまな資源や製品を簡単に入手することができます。農村から都市への移住者は、必然的に鉱物資源や長距離の食料・木材の供給に依存したライフスタイルをとることになります。したがって、発展途上国における都市の成長は、人類が地球環境に与える影響を増大させる大きな要因となっています。

 現状では、現代の都市は、世界中の農村部から継続的に資源を投入することで成り立っています。都市の持続可能性は、遠く離れた地域の持続可能性と表裏一体の関係にあります。例えば中国。1978年以降、中国の食肉消費量は10倍近くに増加し、1人当たり年間70kgに達しています。これはヨーロッパの1人当たりの消費量と同程度ですが、米国の数字よりはまだ低いです。しかし、中国の問題は、その膨大な人口に比例しています。中国の農地は土壌汚染や都市化の影響で荒廃しているため、中国の家畜の餌となる大豆の大部分はアマゾン川流域で生産され、最近の大規模な火災は、熱帯雨林の農地への転換が続いていることが直接の原因です。このように、都市化は地球システムの健全性に影響を与える重要な要因となっています。

 密集した都市部に人が集まることは、新型コロナウイルスのパンデミックのような人から人への病気の感染にも関係しています。したがって、これらの課題に対処するためには、神から授かったこの惑星の管理責任(planetary stewardship)に対する新しい統合的なアプローチが必要です。相互につながっているこの世界で、私たちはどのようにしてこれらの重要な問題に取り組めるのでしょうか?

都市の新陳代謝

 私たちは世界中で、自分たちが使う資源がどこから来るのか、そして廃棄物がどこに行くのかについて、あまり関心がない傾向にあります。固形廃棄物の行き先については漠然と理解していますが、流してしまう液体の廃棄物についてはほとんど知りません。実は、地球上の川の河口にある何百ものデッドゾーン[過剰な富栄養化による無・低酸素海域]は、私たち全員が原因となっているのです。食物に含まれる窒素、カリ、リン酸に加えて、鉱物性の肥料や農場から浸出するスラリー、産業汚染物質なども含まれています。持続可能な都市生活を真剣に考えるのであれば、下水を浄化するだけでなく、含まれる栄養素を最終的に私たちを養っている農地に戻す必要があります。

 私たちの集団的消費主義は、人間と自然をつなぐ主要な接点となっています。私たちの行動は、本来再生可能なシステムである土壌、森林、河川、サンゴ礁を、再生不可能なシステムに変えてしまっています。これらの影響には、積極的かつ前向きに取り組む必要があります。都市化する人類の環境への影響全体に正面から向き合わなければなりません。

 エネルギーや物質(炭素、窒素、リン、金属、水、工業製品など)が、生物圏やグローバル経済から都市に入り、都市のシステムを介して浸透し、劣化した形で生物圏に戻っていく。エントロピーが支配しているのです。現在、非効率で無駄の多い直線的な入出力システムとして機能している都市の新陳代謝を、資源効率の高い再生可能な循環システムに変換する必要があります。

都市計画と管理の新しい統合科学が緊急に必要です。しかし、新しい都市の科学を構築するための最近の書籍は、都市とその先の生物界との関係をより深く理解することよりも、主に都市内の環境を秩序立てて構造化することに関心があるものが多いです。

再生可能なシステムとしての都市

 限りある地球上では、経済成長にも都市の成長にも限界があるのは避けられません。限界という概念を克服する唯一の方法は、都市がその維持のために依存している生命システムを継続的に再生することです。都市が私たちの主要な生活の場となるにつれ、私たちは生態系の法則に従うことを学ぶのが急務となっています。新しい都市の計画や既存の都市の改修には、大きなパラダイムシフトが必要であり、それを示唆するのが、バリー・コモナー(Barry Commoner)が開発した基準です。

 生態学の4つの法則

 すべてのものは、他のすべてのものとつながっている。すべての生物の生態圏はひとつであり、あるものに影響を与えるものはすべてに影響を与える。

 すべてのものはどこかに行かなければならない。自然界には「無駄」はなく「捨てる場所」もない。

 自然が一番よく知っている。ある物質が自然界に存在しないということは、その物質が生命の化学反応と相容れないことを示していることが多い。

 無から有は生まれない。自然の利用には必ず生態学的なコストがかかり、そのコストは大きい。

 (バリー・コモナー著『クロージング・サークル(The Closing Circle)』1971年出版より引用)

 世界中のさまざまな都市では、発展の段階が大きく異なり、必ず異なる課題に直面しています。ヨーロッパ、北米、オーストラリアでは、都市の成長は非常に限られており、主な課題は都市システムの「生態学的な改修」を行うことです。急速に都市化が進むアジア、アフリカ、南米の国々では、都市開発は「最初からスマート」であるべきです。スマートとは、再生可能エネルギーを重要な要素として、資源効率の高い基準で定義されています。

 近代以前は、古代ローマのような100万人規模の都市が人類最大の居住地でした。しかし現在では、1億人規模の都市群がすでに現実のものとなっています。中国の珠江デルタにある香港、広州、深圳などの9つの都市は、すでにそのような規模にまで成長しています。中国政府は現在、北京、天津、河北省を統合して1億人規模の都市圏を形成する「雄安新区」と呼ばれる広大な都市群を構想しています。この目標は、クリーンエネルギーの効率的な利用や、環境にやさしい先進的なプロセスや素材を利用して「エコロジー文明」を創造するという、よく知られている中国のビジョンとどのように一致するのでしょうか。この規模の「クリーンな」都市化は技術的には可能かもしれませんが、既存の例、珠江デルタでは、前代未聞の都市産業の成長が起きたことに伴いに、大気、水、土壌の汚染が蔓延していて、好転が見込めません。

 現代の都市化に伴う地域的な環境汚染や世界的なエコロジカル・フットプリントに対処することは、歴史的な課題です。一方で、都市ではダイナミックで新しいアイデアが生まれることもあります。私たちの眼前にある惑星の緊急事態に直面する中で、この創造性を活用して、都市を再生可能な環境に有益なシステムとして再考し、都市に住む個々の人々の幸福と、私たちの故郷である地球の健全性に対する人類全体の関心を結びつけることが課題です。再生可能なエネルギー資源を主流とし、都市を維持する源である生態系や土壌を保護し、継続的に再生することによってのみ、都市は人類にとって長期的に存続可能な家となれるのです。

ハーバート・ジラルデット(Herbert Girardet)は、リサージェンス・トラストの評議員。ワールド・フューチャー・カウンシルの共同設立者であり、ローマ・クラブのメンバーでもある。最新の著書は『Creating Regenerative Cities』(Routledge)。

A New Age • Herbert Girardet

Regenerative cities are the key to the crises of our times

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Illustration by Irene Rinaldi yoirene.com

リサージェンス & エコロジスト 日本版

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