より良い公共交通機関のお披露目を

エリー・ハリソンがショー「Bus Regulation: The Musical」の裏話を語ります。

翻訳:沓名 輝政

 アートと政治の関係、あるいはアートとアクティビズム(社会活動の実践)の関係については、永遠の課題です。特に2009年に選挙活動に積極的に参加するようになってからは、ずっと考えてきたことでもあります。それは、私がグラスゴーに引っ越した翌年のことでした。英国は世界的な金融危機の余波を受けており、コペンハーゲンで開催される国連気候サミット(COP15)の直前でした。私はグラスゴー芸術学校でファインアートの修士課程の途中にいたので、これらの出来事を研究し、私たちの周りで展開されていた社会的、経済的、環境的な危機の間に関連性を見出し始める時間がありました。このようにして考えた結果、私は行動を起こすことになりました。

 温室効果ガスの排出量を削減することは、私たちの最優先事項であることは明らかでしたが、私はいたるところで、人々がより持続可能な生活を送ることを妨げる障害を目にしました。それが顕著に現れたのが、公共交通機関でした。1980年代から90年代にかけて、バスの規制緩和や鉄道の民営化が行われた結果、サービスは低下し、運賃はインフレ率をはるかに超えて高騰していました。電車で移動するよりも飛行機や車で移動したほうが安い場合もあり、気候にも悪影響を与えていました。私たちにとって、公共交通機関を、株主に利益をもたらす手段としてではなく、排出量削減のための戦いに不可欠な重要な公共サービスとして捉え直すことが急務でした。なぜどの政党も、鉄道を公有化してサービスを向上させ、運賃を引き下げることを主張しなかったのでしょうか。私は、このような要求をする運動を始めたいと思いました。

 こうして「Bring Back British Rail」が誕生したのです。グラスゴー芸術学校のバーンズ・ビルディング(Barnes Building)にあるスタジオから、私は公共交通機関の活動家としての駆け出しの一歩を踏み出しました。当時の私は、この活動を芸術批評として捉えていました。ポーランドの芸術家アルトゥール・ジミェフスキ(Artur Żmijewski)の言葉を借りれば、アートは「政治的要求を提示するには弱すぎる」と感じ、気候危機の緊急性からもっと直接的な行動が求められていると考えたのです。こうして私は、芸術家と活動家という2つの顔を持ち、2つの間を行き来する生活を始めたのです。もちろん、私の芸術作品はより政治的なものになっていきましたが、私は常にアクティビズムとは対極にあるものとして、まったく別のものであるべきだと考えていました。

 これは2016年に「The Glasgow Effect(グラスゴー・エフェクト)」という(後に私の本の題名になった)プロジェクトを立ち上げたときに明らかになったことです。私はこのプロジェクトを「デュレーショナル[時間の推移が意味を持つ:durational]パフォーマンス」と呼んでいますが、1年間グラスゴーの市街地を離れず、自転車以外の乗り物を使わないことで、交通機関による自分の二酸化炭素排出量をゼロにすることを目指しました。これは「グローバルに考え、ローカルに行動する」ための実生活の上での実験であり、自分が住んでいる場所に注意を向け、そうすることで自分のアクティビズムをローカル化する機会でもありました。

 このプロジェクトは、クリエイティブ・スコットランドから受けた資金(1年間で15,000ポンドの助成金)と、私が選んだ挑発的な方法で、当時、物議を醸しました(28ページの「グラスゴー・エフェクト」をご参照)。しかし、この構造は意図したものです。私は他の人たちにも、私たちの都市や社会における社会的、経済的、環境的な不公平と、幸福度の低下との間に、同じような関連性を見出してもらいたかったのです。私自身のライフスタイルを顕微鏡で観察することで、文字通りの移動と社会的移動(流動性)、そして階級と二酸化炭素排出量の関係を明らかにすることができました。なぜなら、最も頻繁に、より長距離を移動し、環境に最も大きなダメージを与えているのは、最も裕福な人々だからです。

 年月が経つにつれ、私は公共交通機関の中にも大きな不平等が存在することに気づき始めました。鉄道は富裕層が長時間利用することが多く、一人当たりの公的補助金の額も多いのです。一方、路線バスは公共交通機関の4分の3を占め、低所得者、女性、若者、高齢者、障害者などが主に利用しています。しかし、30年以上もの間、私たちのバスは完全に見過ごされてきました。そこで私は、鉄道の再国有化よりも、より平等で持続可能な、つながりのある都市を形成するための中心となるバスの再市営化に注目する必要がありました。そこで私は、地域の公共交通キャンペーン「Get Glasgow Moving」の立ち上げに協力し、地域の公共交通網を再び地方行政が所有し管理することを要求しました。

 1年を終えて向こう側に行ってみると、自分の役割が進化し始めていることに気づきました。クリエイティブな仕事とは切り離して考えていたアクティビズムが、より中心的なものになりました。2016年に着手した「Get Glasgow Moving」やその他の地元のプロジェクトやキャンペーンが、私の人生の多くを占めるようになりました。芸術作品を作る時間も気力も大幅に減りました。もし作るとしたら、自分のアクティビズムともっと大きな統合が必要だとも思っていました。「グラスゴー・エフェクト」をめぐる論争が、味方であるべき多くの労働者階級の人々を怒らせ、私が「ポバティー・サファリ[貧困地帯を救うことなく野生動物のサファリように見物して終わること]」に向かっていると非難されたのに対し、私は次に何をするにしても、すべての人を味方につけなければならないと考えていました。

 2018年秋、私はマンチェスター・アート・ギャラリーから招待状を受け取りました。それと同時期に知ったのが、新しい「Better Buses for Greater Manchester」キャンペーンで、マンチェスターがバス運行の再市営化に取り組む英国初の都市圏となることを要求するために始動していた活動です。私は、この活動の認知度を高めるために、ギャラリーが提供するプラットフォームを利用することにして「Bus Regulation: The Musical」というアジプロ[扇動的な宣伝]を構想しました。私が幼い子供の頃に見た1980年代の大ヒットミュージカル「スターライトエクスプレス」に着想を得て、ローラースケートを履いたパフォーマーが1960年代以降のグレーター・マンチェスター[合同行政機構と呼ばれる地方経済活性化のための権限と予算の委譲を実現する自治体間連携の仕組みを持つ大都市圏]の公共交通政策を語るというミュージカルです。これは、バスの再市営化の必要性を訴えるために、この重要な歴史を視覚化する、楽しくて家族向けの方法でした。これに腹を立てているのは、億万長者のバス会社のボスたち(そしておそらくアンドリュー・ロイド・ウェバー[数々の名作で音楽を手掛けたミュージカル界の巨匠]!)だけでしょう。

 2年後、キャンペーンは成功し、アンディ・バーナム市長は、2021年3月に再市営化を進めるという歴史的な決定を発表しました。これにより、気候変動の目標を達成し、格差を是正し、すべての人の生活の質を向上させるために、地域が必要とする世界クラスの完全に統合された公共交通ネットワークが実現します。これは、他の都市が追随するための前例となり、そう、追随せざるを得なくなります。「Better Buses for West Yorkshire」キャンペーンは、リーズ都市圏で大きな成果を上げており、リバプール合同行政機構も再市営化が最良の選択肢であると結論づけています。2022年5月の地方選挙に向けて、私はこのミュージカルをグラスゴーに持ち帰り「Get Glasgow Moving」での私の活動と合わせて、私たちの街にバスを取り戻せるようにしたいと思っています。

エリー・ハリソン(Ellie Harrison)はグラスゴーを拠点に活動する芸術家であり、活動家。www.ellieharrison.com/busregulation エリーの著書『The Glasgow Effect: A Tale of Class, Capitalism and Carbon Footprint (Luath Press)』について、12月15日午後7時から開催されるリサージェンス・ブッククラブで、エリーと一緒に話し合いましょう。www.resurgenceevents.org

Setting the Stage for Better Public Transport • Ellie Harrison

The story behind the show Bus Regulation: The Musical

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リサージェンス誌は、スモール・イズ・ビューティフルを提唱したE.F.シューマッハらが始めた社会変革雑誌で、サティシュ・クマールさんが主幹。英国で創刊50年、世界20カ国に読者4万人。環境運動の第一線で活躍するリーダーたちの、よりよい未来への提言で、考える糧を読者にお届け。また、詩や絵などのアートに溢れているのも特徴。

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