航空拡大計画を無くす

ラッセル・ウォーフィールドは、英国での航空拡大を阻止する判決の意味合いを讃えています。

翻訳:沓名 輝政

環境保護活動家が法廷の外でお祝いすることは滅多にありません。通常は、現状に有利な法的枠組みに対して私たちの希望をぶつけたり、平和的抗議のために起訴された活動家を擁護したりするために法廷の外に立ちます。

 しかし、2020 年 2 月の冷たい雨の朝を何時間も待った後、地球の友 (Friends of the Earth) の気候変動運動家アーロン・キーリー (Aaron Kiely) は、法廷の中から速報を受け取り、メガホンを手にして、短い 2 単語で「We’ve won!(私たちは勝った!)」と言い、集まった気候変動活動家の間で喜びの波を起こしました。

 地球の友、Plan B [英国慈善委員会登録の慈善団体] と彼らの弁護士は、第 3 滑走路の阻止に成功し、気候危機に関する事件で、政府にはパリ協定の約束を考慮に入れる義務があり、それをしないことは 2008 年の法令 (Planning Act 2008) に違反していると主張していました。裁判官は、このような状況は拡張計画にとって「法的に致命的」であるとの判決を下しました。

 「この判決は気候正義のための絶対的に画期的な結果だ」と、地球の友の弁護士ケイティ・デ・カウウェ (Katie de Kauwe) は私に語りました。「私たちは、現在と将来の世代に多大な影響を与えるであろうプロジェクトと戦っていました」

 「裁判所は、気候変動の危機を主要なインフラの決定の中心に据える必要があることを具体的に認識しています。政府はこの事実を認識し、大規模な新しい道路やヒースローその他の空港の拡張など、時代遅れの気候を破壊する交通プロジェクトの追求を止め、代わりに私たちが必要とするクリーンな交通ネットワークを提供する時が来ているのです」

 気候や地域の環境にとって、ヒースロー空港の第 3 滑走路は大惨事となり、1 日に 700 便以上の増便を余儀なくされていたことでしょう。気候の緊急事態と大気汚染の危機の中で、このプロジェクトは近年の環境保護活動の一触即発の問題となっていました。

 地球の友は、2019 年 3 月に初めて高等裁判所に提訴しましたが、3 ヶ月後に却下されました — 皮肉なことに、議会が気候緊急事態を宣言した日に。自分たちの主張の強さを確信した同 NGO の弁護士団は 2019 年 10 月に上告し、今年 2 月の最終決定につながりました。

「結果が出るのを裁判所の外で待っていたとき、誰もが気を揉んでいました。なぜなら、このような重要な事件であることを知っていたからであり、それがどのような方向に進むかわからなかったからです」とデ・カウウェは言います。「結果が発表されたときは、全くもって信じられませんでした!」とデ・カウウェは言いました。

 この勝利は、気候変動活動家や騒音や大気汚染によって生活に支障をきたすであろう地域住民、あるいは自身の家が完全に均されていたであろう地域住民からの数十年に渡るキャンペーンの結果として得られたものです。

 おそらく最も有名なのは、2015 年にキャンペーングループ「Plane Stupid」の活動家たちが、空港委員会の拡張勧告を受けて提案された拡張計画に対して、北側の滑走路に侵入して 25 便を離陸させないという平和的な直接行動をとったことです。ヒースロー空港に侵入した 13 人には重罪の不法侵入の有罪判決が下され、危うく実刑を免れました。

 「先週の決定は私を唖然とさせた」と、活動家の一人であるダニー・パファード (Danni Paffard) は私に言いました。「そして、涙ぐみ、有頂天になった。こんな狂った時代でも、時として常識が勝つことがあるようだ」と。

 私は彼女に、ヒースロー空港の拡張を阻止することが 5 年前に実際に可能だと感じていたかどうかを尋ねた。「私は、それが実行されるまでは、決して可能だとは思えないと想像しています」と彼女は認めた。「ヒースロー空港に対して行動を起こすことは、確かにそのように感じました。勝てると分かっているから、あるいは勝てると思っているからやるのではなく、やらないわけにはいかないからやるのです」

 この大勝利には、航空拡張に反対する他の 2 つの勝利が続き、ブリストルとスタンステッドの拡張計画を地元住民やクライメートフレンドリーな [気候変動防止を支持する] 議員が阻止しました。

 果てしない成長と拡大の容赦ない論理は、12 ヶ月前でさえ乗り越えられないと感じていたかもしれません。今日では、少なくともこの勝利の影響はお祝いのための更なる原因であるため、潮目が変わってきていることを望むことが可能であると感じています。

 多くの運動家や弁護士は、この判決で示された法的前例が、パリ協定で定められた約束や英国のネットゼロ目標を十分に考慮していない環境破壊的なプロジェクトに対する他の法的挑戦への扉を開くことになると考えています。

 すでに自然主義者のクリス・パッカムは、100 以上の古代の森林を踏みにじる恐れのある鉄道プロジェクト HS2 に対して法的挑戦を行っており、一方で、1990 年代以来の英国最大の道路建設計画に対しては、トランスポート・アクション・ネットワーク (Transport Action Network) が訴訟を行っています。

 最も野心的な挑戦は、ジョージ・モンビオ、エコトリシティのデール・ヴィンス、グッド・ロー・プロジェクト (The Good Law Project) からのものであり、政府のエネルギー政策全体を覆そうとしています。

 「ヒースロー空港の判決は非常に重要です」とモンビオは私に語りました。「これは、気候破壊に最も責任のある他のセクター、特にエネルギーインフラや道路交通などの分野でも適用できる前例を作ったのです。これらの部門は、空港拡張で成功を収めたのと同じ枠組みで管理されています。私たちは、同じ結果が得られると確信しています」と語りました。

 エネルギーに関する国の政策声明は 2011 年以来更新されていないため、2050 年までにネットゼロにするという英国の新たな法的公約は考慮されていません。この訴訟が成功すれば、英国での新たな化石燃料エネルギープロジェクトが阻止される(通常のビジネスからの脱却の)可能性があります。これは、提案されている滑走路の中止よりも、重大なものとなるでしょう。

 政府はすでに、控訴裁判所の判決に上訴する予定はないと発表しています。ヒースロー空港の開発者は上訴するつもりとは言え。彼らがこの画期的な勝利を覆すことができるのか、それともこの判決によって法的挑戦が連鎖的に起こり、すべてを変えることになるのかは、時が経てばわかるでしょう。今のところ、ヒースロー空港の3 本目の滑走路は死んでおり、英国の気候変動運動に新たな息吹が吹き込まれています。

ラッセル・ウォーフィールド (Russell Warfield) はフリーランスのジャーナリストです。

Clearing the Airways • Russell Warfield

Celebrating a ground-breaking court ruling

リサージェンス & エコロジスト 日本版

リサージェンス誌は、スモール・イズ・ビューティフルを提唱したE.F.シューマッハらが始めた社会変革雑誌で、サティシュ・クマールさんが主幹。英国で創刊50年、世界20カ国に読者4万人。環境運動の第一線で活躍するリーダーたちの、よりよい未来への提言で、考える糧を読者にお届け。また、詩や絵などのアートに溢れているのも特徴。

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