スタイルの問い

マリア・C.・ハヴェスタムとフランツ・P.・シュミットが挑戦的な新しい展示会を開催

翻訳:佐藤 靖子

非人道的な生産条件、気候や環境への重大な負の影響にもかかわらず、ファッション業界、特にファストファッションの消費が増加していることを私たちの多くは知っています。気候危機は深刻ですが、ファッションの消費となると、私たちは間違った方向へ向かい、見ないふりをして安いものをたくさん買い続けています。

 倫理的に言えば、この業界は過剰生産、天然資源、労働に関して大きな問題を抱えています。原材料の開発から完成品の販売まで、業界では 3 億人以上を雇用しています。市場と生産者の距離は遥か遠く離れていることが多く、生産者と消費者の意識や知識は一般的に不十分です。数十年にわたり、ファッションチェーン店は企業の社会的責任を取り入れ、倫理ガイドラインを自らに課してきましたが、必要とされているものが飛躍的改善であるにもかかわらず、より一層責任感のある繊維産業になるための取り組みは最小限でしかありません。

 私たちはこれについてどう対処するのでしょうか?責任は誰にあるのでしょうか?業界は生産量を進んで制限したり、品質を向上させたり、全ての従業員の尊厳を根本的に改善したりする意志も能力もないのでしょうか?消費者はファッションの社会的、実質的意味について考え方を変えることはできるでしょうか?資本主義、成長、直線的な資源利用について確立された経済システムや考え方に基づいた変化は起こり得るでしょうか?解決のためには線維や衣料品の工業的な生産を止めるしかないのでしょうか?どうしたらそれが起こるのでしょうか?その結果はどのようなものでしょうか?

 「Don’t Feed the Monster! (怪物に餌をやるな!)」という展示会では、12 名のデザイナーとアーティストがビジュアル・ナラティブ(視覚的に物語を伝えること)やデザイン、積極行動主義、テクノロジー、文化史の探索などを通じてこうした疑問について検討しました。イギリス人写真家のティム・ミッシェル(Tim Mitchell)は、2 つの異なる世界の間の途方もない差を強調するインスタレーション(仮設立体芸術作品)に結びついた 2 点の写真作品を展示しています。「Welcome to Fashion Week(ファッションウィークへようこそ)」(2002 ~ 2005 年)の写真は狭い部屋の両端のスクリーン上で絶えず点滅し、永遠に変わり続けるものという感覚を与えています。「Clothing Recycled(リサイクル衣料)」(2004 ~ 2005 年) シリーズは、二酸化炭素排出の少ない特別なプリンタを用いてリサイクルペーパーに印刷された、壁の単独画像で表現されています。その画像はインドのパーニーパットの線維リサイクル工場の女性を表わしています。女性の一人が作業から顔を上げ、まっすぐカメラを見つめています。「Clothing Recycled」は人類学者のルーシー・ノーリス (Lucy Norris) の協力で作られ、持続可能で倫理的な生産モデルがどのようなものかという問いを模索しています。2 つのシリーズは「Product(製品)」(2019 年)という本で合わせて紹介されており、この展示会でも展示されています。この 2 つが合わさると、ミラノとパリのファッション週間と、パーニーパットの線維リサイクルは同じ物語の両端であることがはっきり分かります。

 実践的なアプローチを通じて生産における持続可能性の問いを扱っているもう一人のデザイナーは、ノルウェーのシーリ・ジョハンセン (Siri Johansen) です。彼女はパリの Kenzo のニットウェアの長を務めていて、この展示会では、独自の「Waste Yarn Project(WYP:糸くずプロジェクト)」を展示しました。WYP では中国の上海のニットウェア工場から糸くずを集めていますが、無駄にすべきでないと考えてのこと。糸くずはその後、工場のワーカーの個人の好みと巡り合わせにより、無二のセーターに編み上げられます。製品は遊び心に溢れ、カラフルで持続可能です。展示会では、プロジェクトを紹介するビデオと布地サンプル、そして、生産プロセスの文脈から外れた物(例えばルーレット盤など、それぞれのデザインが依拠する包括的な方法のごく一部を形成する物)の横で展示されています。

 「Don’t Feed the Monster!」は現代美術と衣服デザインとをつなげるもので、線維業界とファッション業界のパラダイム、直線的な生産、低賃金労働、終わりのない新しいコレクション、そして絶え間ない経済成長を批判する共有の場を作ることを目指しています。

マリア・C.・ハヴェスタム (Maria C. Havstam) とフランツ・P.・シュミット (Franz P. Schmidt) は「Don’t Feed the Monster!」の展示会のキュレーターです。この展示会は 2020 年 1 月 22 日までノルウェーのモスにある「Galleri F 15」(www.gallerif15.no)で開催されています。


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318: Jan/Feb 2020

リサージェンス & エコロジスト 日本版

リサージェンス誌は、スモール・イズ・ビューティフルを提唱したE.F.シューマッハらが始めた社会変革雑誌で、サティシュ・クマールさんが主幹。英国で創刊50年、世界20カ国に読者4万人。環境運動の第一線で活躍するリーダーたちの、よりよい未来への提言で、考える糧を読者にお届け。また、詩や絵などのアートに溢れているのも特徴。

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