反逆の手引書
「厄介な時代の厄介な本」と、グラハム・ジョーンズが評します。
翻訳:斉藤 孝子
「This Is Not a Drill: An Extinction Rebellion Handbook(仮訳)これは練習帳に非ず:絶滅への反逆の手引書」
絶滅への反逆 (Extinction Rebellion) 著
Penguin, 2019
皆さんは絶滅への反逆(XR:エクスティンクション・レべリオン)について耳にしたことがあるでしょう。その環境キャンペーンは、焦点を絞った派手な、様々な面で世間を騒がせる直接行動でうねりを起こしてきました。2019年4月にロンドン中心部にもたらされた数週間の混乱は節目となり、これまで直接行動に携わって来なかった多数の人々を動員し、ついには先延ばしされてきた対話を公の場に持ち込みました。XR はまた、その無責任な戦術、資本主義は真の敵であるという前提の考え方、途上国の人々の現在の苦闘を過小に言うなど、一部の左派組織から批判もされてきました。
このことから、「絶滅への反逆の手引書」は、そのメッセージ(と行動を起こす自信)を更に推し進めるため、ぺンギン社から出版されました。この本は、色々な著者による 32 の短編随筆集で、二部構成、全編には XR を想起させるインパクトあるアートワークの挿絵があります。第一部の「真実を語る」は、現在の状況、つまり、気温上昇、大規模な自然災害、対策すべき政府の失策に関連しています。第二部の「すぐ行動せよ」は、気候変動活動に関する実践的なアドバイスで、どのように組織し実行するか、キャンペーン支援の構築、芸術創作の本質、食料の提供、当日の精神の維持が書かれています。この二部構成は、XR がグループを作るために英国で行って来たプレゼンテーションの成功例を反映しており、その経験をより多くの読者が使えるようにしています。
そこには一切書かれてませんが、批判に応えようとする努力があったことが覗えます。先住民の苦闘や途上国の生態学的状況についての章が目立ち、真の問題として資本主義と植民地主義が頻繁に名指しされています。私が個人的に XR について批判していたのは、(単に排出量の削減を要求するのとは対照的に)変革後の社会構造という観点で、明らかに将来の具体的ビジョンが欠けていることです。
ですから、最後のいくつかのエッセイで、シリア北部の自治を求める民主的な連合ロジャヴァのような代替社会の考え方を展開しているのは嬉しい驚きでした。またポスト経済成長時代についての議論、都市の再設計、共通所有権構築のアイデアはもちろん、ブラジル、ポルトアレグレでの参加型予算や米国の Cooperation Jackson の革命的な協力ネットワークもです。私にとっては、こういう考え方がより広い読者層に知られるという可能性だけで、この本は推薦に値します。なぜなら、それが気候変動への活動において欠けたままにになっている部分だからです。
批判的だった人々の不満は変わらないかもしれません。エッセイの多くは、紛れもないリベラルな国家分析を続けています。たとえば、「社会契約」という言葉は、この概念が資本主義と植民地主義のバックボーンを形成した同じ啓蒙哲学から生まれたという分析や認識なしにあちこちに現れます。さらに、警察への友好的なアプローチは相変わらずで、組織の DNA に深く組み込まれており、そのままでいる可能性が極めて高いです。しかしこの本には、なぜこの手法を採ったのかの説明が、他のどこよりもはるかに明確に記されています。XR のこういう側面やその他の面で更に批判を始めようと思う方誰にでも、その根底にある戦略の洞察を得るために一読をお勧めします。
この本にいかなる問題があろうとも、意図された目的という観点で一歩下がって着目する価値があります。つまり左翼の幻想の外にいる多くの人々を動員するという目的です。増大する危機の大きさとそれに対抗するために何ができるかの両方を、読み易い文体で、平均的な読者に紹介するのに適しています。植民地主義の役割や実現可能なユートピアのビジョンなど、普通の会話では聞いたことがないアイデアに種を蒔きながら紹介しています。
万人向けというわけではなく、そう承知の上です。厄介な時代の厄介な本です。生活の中で行動を起こすのにもう一押しが必要な方にお奨めします。
グラハム・ジョーンズは「The Shock Doctrine of the Left(仮訳:衝撃の左翼理論)」の著者
A Handbook for Rebellion • Graham Jones
316: Sep/Oct 2019
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