マンゴノミー

サティシュ・クマールがマンゴノミーを讃える。

翻訳・校正:林田 幸子・沓名 輝政

自然の経済は、再生的で、回復力があり、豊かで、循環的。自然は廃棄物を出さない。森にはゴミ箱がない!

 例えば、マンゴーの木とマンゴーの実。私たちは1粒の種という投資をして土に植える。この土を私は「大地の銀行」と呼んでいる。すると、ゆっくりと、しかし着実に成長していく。その種は、太陽、土、雨、そして受粉を媒介するミツバチや果樹園の管理人たちと協力し、ゆっくりと美しい木になっていく。

 数年のうちに、その木は何百個もの見事なマンゴーを実らせる。なんという驚くべき投資回収だろう!どのマンゴーも美味しく、栄養価が高く、滋養に富み、香り高く、甘く、健康的で、見た目も美しい。ジューシーでおいしい果肉は柔らかい皮に包まれ、堆肥にして土に還すことができる。廃棄物も汚染もプラスチックもない。マンゴーの木は昼間に酸素を供給し(私たち人間が必要とする)、二酸化炭素を吸収して自らの栄養とする。なんという奇跡だろう!

 マンゴーの木とマンゴーの果実は美しく、有用で、耐久性がある。芸術家はマンゴーの絵を描き、写真家はマンゴーの写真を撮り、詩人はマンゴーについて詩を詠む。

 それぞれのマンゴーには種がある。数年前に植えた1粒の種が、今では何百粒にも増えている!最終的には、1つの種からまったく新しい果樹園を作ることができる。種の不足はない。種を買う必要もない。これが豊かさのマンゴノミーなのだ。

 マンゴーの木は、寛大さと平等の大切さを教えてくれる。王であろうと乞食であろうと、聖人であろうと罪人であろうと、僧侶であろうと囚人であろうと、人間であろうと動物であろうと、鳥であろうとスズメバチであろうと、誰もがマンゴーを楽しみ、マンゴーの糧を得ることを歓迎される。

 マンゴーの木から 「クレジットカードを持ってきたか?」と尋ねられることはない。誰もがマンゴーを食べることを歓迎されている。マンゴーの木そのものに関する限りは、差別も判断もお金も必要ない。

 マンゴーの木は化石燃料も電気も風車もソーラーパネルもバッテリーも必要としない。必要なのは、常に供給される受動的な太陽エネルギーのみ。マンゴー園には工場の床もコンクリート建築もインフラも必要ない。マンゴーの木は自給自足、自己管理、自己完結型なのだ。

 マンゴーの木はマンゴー以上のものを与えてくれる。マンゴーの木は、鳥たちが巣を作るための枝を提供する。暑い夏には涼しい木陰を作り、人や動物を休ませ、寒い冬には薪となる。マンゴーの木は、その寿命が尽きると、日常的に使うものに加工される。マンゴーの木は大地から生まれ、大地に還る。生きている間は他の種に恩恵を与え、誰にも害を与えない。

 これは完璧な経済だ。私たち人間は謙虚になり、特にマンゴーの木から、そして自然全般から学ぶ必要がある。私は自分の言いたいことを説明するためにマンゴーの木を選んだ。しかし、これはすべての果樹や低木、穀物や野菜、ハーブや花、そして自然全体に言えることだ。

 マンゴーのように美しく、有益で、善良で、無害で、価値があり、喜ばれるものを、工場や工業プラントが生産できるだろうか?実業家、ビジネスリーダー、政治家たちは「経済」について語る。しかし、経済の本当の意味を知っている人、理解している人はほとんどいない。経済とは、オイコス(oikos)とノモス (nomos) という2つのギリシャ語からできている。オイコスは「家」を意味し、ノモスは「経営」を意味する。ギリシャの哲学者たちの知恵では、生態系全体が私たちの家であり、生態系の管理こそが真の経済だ。

 しかし、現代の経済学者、実業家、ビジネスマン、政治家たちは、生態系を管理しているわけではない。その代わりに、バランスシートや事業計画、収益性、工業生産、通貨供給などを管理しているのだ。これは真の経済ではない。マネーの管理だ。彼らは生態系や自然を商品、つまり金銭的利益を得るための資源、金儲けのための手段として扱っているように見える。マネーノミーはエコノミーと名前を間違えているが、本当のことを言えば、マネーノミーは反エコノミーなのだ!

完璧な経済

 世界中の政府が一致しているのは、経済成長だ!政府が資本主義であろうと、社会主義であろうと、共産主義であろうと、ヒンズー教徒であろうと、イスラム教徒であろうと、キリスト教徒であろうと、仏教徒であろうと、無神論者であろうと、すべてに共通する目標がある。どの国もマネーノミーの独裁のもとに生きている。これは真の経済成長ではない。彼らが求める成長とは、マネーノミーの成長だ。

 自然の真の経済、すなわちマンゴノミーには、垂直的成長と水平的成長の2種類がある。垂直成長には最適な限界がある。マンゴーの木は平均して30~50フィート(9〜15m)の高さまで成長し、その後は成長が止まる。動物はある限られた高さまで成長し、その後成長が止まる。人間は一般的に6フィート(1.8m)を超える大幅な成長はしない。これが持続可能な垂直成長だ。次に水平方向の成長だ。こちらはもっと柔軟性がある。森林、農場、マンゴー畑は、水平方向の成長においてそれほど制限されていない。

 マンゴー栽培は分散化され、広く分布している。1本の木に数百万個のマンゴーが集中することはない!

長期的な幸福

 いわゆる経済成長は垂直的なものだ。金持ちはますます金持ちになる。限界はない。金融の富はより少ない手に集中する。この世界の大金持ちは垂直的成長を追求する。アマゾン、グーグル、アップルのような企業も垂直的成長を遂げている。彼らにとって十分であることはない。

 約200カ国のうち5~10カ国は経済成長率がはるかに高いが、これらの豊かな国の中でも、多くの人々が非常に低い収入と低い生活水準にある。多くの人々がスラムに住み、多くの人々が豊かな国の路上で物乞いをしている。このような経済成長や貨幣の成長は、多くの人々にとって何の利益ももたらさない垂直的なものであり、長期的に見れば、この種の経済成長は、地球にとって有害な汚染、廃棄物、炭素排出の増大をもたらしている。

 人類の長期的な幸福と、貴重な地球の健康を望むのであれば、私たちは金銭管理への執着を転換し、代わりに生態系の適切な管理に焦点を当てる必要がある。お金は単なる手段であるべきで、その目的は人類と地球の両方の幸福だ。それが真の経済だ!そして、その経済は循環型である必要がある。最小限の廃棄物、最小限の汚染、最小限の炭素排出。

 私たちは皆、マンゴーの木からこのことを学ぶことができる。マンゴー経済万歳!

サティシュ・クマールは『人類はどこへいくのか ほんとうの転換のための三つのS〈土・魂・社会〉 / 原タイトル: Soil, Soul, Society』、『ラディカル・ラブ / 原タイトル: Radical Love』など多くの著書を執筆している。

349: Mar/Apr25

リサージェンス & エコロジスト 日本版

リサージェンス誌は、スモール・イズ・ビューティフルを提唱したE.F.シューマッハらが始めた社会変革雑誌で、サティシュ・クマールさんが主幹。英国で創刊50年、世界20カ国に読者4万人。環境運動の第一線で活躍するリーダーたちの、よりよい未来への提言で、考える糧を読者にお届け。また、詩や絵などのアートに溢れているのも特徴。

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