風景に耳を傾ける
ノエラ・ダウリングは、地質学者から心理療法家に転身したルース・アレンの(著書『Weathering』が風景の再形成と私たち自身の再形成を結びつけた)仕事において、深い傾聴がいかに重要であるかを発見する。
翻訳・校正:沓名 輝政
2024年の夏真っ盛りの月曜日の朝、私はルースとダービーシャーのボトム・ムーア(Bottom Moor)という、彼女が定期的に訪れているアウトドア・セラピー・エリアで会った。暑さが予想される重苦しい天候で、遠くまで見渡せる景色はまさに緑の「ダービーシャー」だった。ボトム・ムーアは林業が盛んな森林で、その日は伐採が行われていた。そのため、低木や自生する木々、松、荒廃したように見える場所、砂岩の島など、さまざまな植生が見られる。広い砂利敷きの道もあれば、狭いながらも、人が歩いてできた使い古された道もある。だから、この道は変化に富んでおり、技能の異なるほとんどの人に適している。
ルースは著書『Weathering』の中で、元地質学者である自分と岩との関わりについて、そして今、物理的にも比喩的にも岩をどのようにセラピーワークに活用しているかについて語っている。風化とは浸食の行為であり、この物理的な空間では、砂岩が磨り減って砂の小道になっているのがはっきりと見える。治療的な空間でも、防衛機制やトラウマ、制限的な信念や行動といった心理的な層が「磨り減る」ことで、自己の他の側面が表面に出てくる浸食的なプロセスが起こる。
心理療法研修生として、ルースの新刊を熱心に読んだ。古典的なセラピールームとはまったく異なる心理療法が、どのように見え、どのように機能するのかを知る良い洞察となっただけでなく、彼女の言葉は示唆に富んでいると同時に、私もこの地域に住んでいるため、よく知っている風景や場所に連れて行かれるような心地よさと親しみを感じた。この本のエネルギーは具体的で、目と耳を越えて簡単につながることができた。ルースの自然界に対する思いやりと、岩に対する特別な情熱にも深く共鳴した。
ルースと歩き、話をするうちに、彼女が屋外の自然をどのようにセラピーに取り入れているのかが見えてきた。人間の神経系を落ち着かせ、調整するのに役立つことから、木々から有益な植物化学物質が放出されること、そしてもちろん、人為的な刺激から解放されることまで。
クライアントのために緑の治療空間を選ぶとき、ルースは屋外にいるときのクライアントの様子に細心の注意を払う。風景に対する反応(あるいは無反応)で「遊ぶ」ように誘う。地形、天候、そして野生動物さえもナビゲートするとき、彼らはどのように感じるのだろうか?(この日は特にウシアブがよく飛び、アリも大忙しだった)。ルースはまた、それぞれのクライアントが自分自身の状況を理解する手助けをするために風景を使う。ルースは著書の中で、極度の過負荷に悩むクライアントの話を紹介している。そのクライアントは「ギリギリの生活」に疲れていると話しており、ダービーシャーの有名な断崖絶壁のひとつであるカーバー・エッジに彼女を連れて行ったのは、まったく理にかなっていたとルースは言う。ここで、クライアントは肉体的にも精神的にも自分の状況を探ることができた。
隠れた場所
ルースの話を聞きながら、私はいつも、クライアントに対する思いやりと、私たちが暮らす土地に対する思いやりを聞いていた。私たちは、暖かく乾燥した明るい日に会い、永久に続く風景の中の人口物や「今日ここにある、明日には消えてしまう」木々についてだけでなく、季節がどのように環境を変えるか、ひいては人の現在の状態についても話した。私たちの談話は、天候によって道がどのように簡単になったり、困難になったりするかを探った。そして2度、私たちは秘密の特別な場所に出くわした。 しばらくの間、立ち止まり、自分の棚卸しをするようなものだ。
ルースが「シャクナゲの大聖堂」と呼ぶこの場所は、「他者」を身近に感じる場所であり、内省的に、そしておそらくは遊び心のある好奇心を持って耳を傾ける場所なのだ。そしてもうひとつは、苔に覆われ、石壁に囲まれた沈んだ場所にある建物の跡だった。この場所は時代を超越しているように感じられた。ここでは、静寂と深い傾聴が求められた。
もちろん、これらは私のごく個人的な体験であり、他の人たちはまた違った感想を持つかもしれない。しかし、ルースにとってどのような出会いであれ、このような環境での治療や内面的な作業は、常に癒しと自己認識に関するものなのだ。岩の地層を利用して、自分自身とその下にある大地とのつながりを取り戻す。小さな一粒の砂利が真珠の基礎になるように。
私たちは、移動することの利点にも気づいた。私たちはただ歩いているだけ。ときには踏み渡し段で柵を越えることもあったが。 ただルースは、意欲的なクライアントやグループに対して、より遊び心のある動きをどのように使うかについても話してくれた。ダンスや岩をよじ登るような動きは、どちらも私たちに身体の知恵や身体の反応につながる回路となり「汝自身を知れ」の体現を助けてくれる。また、アート制作を取り入れることもある。
そして傾聴は、環境や表面的なものから、深く直感的な「身体は知っている」という種類のものへと移行する。このような深い傾聴を呼び起こすということは、直感的に自分自身を聴くことから、環境、その中での自分の居場所、自分にとっての価値、そして環境に対する敬意へと広がっていくことを意味する。そして、環境を私たちのコミュニティの一部とすることで、私たちがレジリエンスを築き、コミュニティの中に「いる」ことができるようになる。ルースは、地質学的に自然豊かな環境を利用して、これらの側面と遊び、自分自身を理解し始める。何が私たちを駆り立てるのか?何が私たちを養うのか?感覚と身体を使って耳を傾けることを学ぶにはどうしたらいいのか。
私たちのウォークは、「自然環境の中で働くセラピストとして、この地球が私たちにとってどれほど貴重なものであるか、クライアントの目と耳を開く責任はあるのだろうか」という問いを探求することで締めくくられた。エコ悲嘆とエコ不安が時代の重要な問題になっている今、私たちはどのようにクライアントと環境に奉仕すればいいのだろうか?その両方を尊重し、自分自身とクライアントの中に、自己と環境とのつながりを生み出し、コミュニティの創造へと波及させることができるだろうか?これこそが、大きな癒しと成長の基本ではないだろうか。ルースが最後に語った「生命は部分的に切り離すことはできない。私たちは皆、互いに、そして地球とつながっている。このことを忘れるのは無謀だ!」
ルース・アレンのインタビューを読むもう。
ノエラ・ダウリング (Noela Dowling) はヨガとピラティスの元教師で、現在は統合心理セラピストのトレーニングを受けている。美しいピークディストリクトの近くに住み、石が大好き。
347: Nov/Dec24
0コメント