大地の民族の教え

気候変動への対処:先住民族の文化から何を学べるか。グレブ・レイゴロデッツキーがカナダ西部からレポート。

翻訳:浅野 綾子

「この大地を歩くとき、私たちは喜びと敬意をもって、謙虚に、ゆっくりと足を運ぶ。私たちが踏みしめるこの土塵は、元は祖先の身体だったからだ」 クラクワット族 (Tla-o-qui-aht) の長老、リーバイ・マーティン (Levi Martin) は言いました。机の向こう側に見える彼の姿は高くそびえ、挨拶に私の手を握ります。そして木のテーブルの上やベンチについた朝露をシャツの袖で拭いました。「それで少し遅くなったんだ」リーバイはウィンクして、私の向かいに座りました。彼の顔にいたずらっぽい笑顔が広がりました。

 「ああ、何て気持ちのいい日だ」そう言ってリーバイは伸びをし、息をつきました。手は灰色のあごひげを真直ぐに引っ張っています。夏の朝、トフィーノには霧が立ち込めます。クレイクォットサウンドの夜の冷気は、カナダ西部のブリティッシュコロンビア州の海岸沿いを伝い、ヒマラヤスギやボート、浜辺、外に置かれたベンチの周りに漂います。でも、午後になるまでには焼ける太陽の光が霧を裂き、沿岸の空気は温められ、霧が引いていきます。私たちの湿った身体にはこの温かさが快く感じられました。私たちはコモン・ローフ・ベイクショップ (Common Loaf Bake Shop) の2階にあるテラスでランチをとることに決めました。

 ベランダの下には、ファースト・ストリートがトフィーノの船着場まで伸びています。船着場は、バン・ネベル水路 (Van Nevel Channel) を横切ってオピットサットの町までの短い距離を渡る乗客を、水上タクシーが流れるように運んでいく場所です。オピットサットはヌーチャルス [ヌートカ族] の言葉で「集いの場所 (a gathering place) 」。リーバイの生まれた場所であり、クラックワット族の数千年来の冬の町でもあります。その標高730mの Wah-nah-jus(ローンコーン山)の麓の海沿いには赤、白、青の平屋が並んでいます。

 人々が敬うヒーラーであり、スピリチュアルリーダーでもあるリーバイは、1945年に生まれました。彼の育った環境は、クラクワット族の文化や言葉、伝承が世界のすべてでした。16人兄弟の末子で、生まれた時に授けられた部族の名は「Kaa-mitsk (戦う者・狩る者) 」。幼少期は家族と共に過ごし、Wah-nah-jus 周辺で狩りや採集、釣り、わな猟もしました。でも、アハウサット、ヘスクィアット、ヌートカ、カイウクォットというバンクーバー島西海岸沿いのコミュニティに住んでいた他の多くの子供たちと同じように、リーバイはクリスティ・インディアン・レジデンシャル・スクール(Christie Indian Residential School:先住民族の子供たち向けの寄宿学校)に送られました。1898年から1983年の間、カトリック教会がミアーズ島で運営していた学校です。。。。(記事全文は定期購読にてどうぞ

。。。「私たちの命と、生きとし生けるものすべての生命を維持する4つの聖なる要素がある。もっとも強大な力をもつ要素。」 最後にリーバイは語りました。「火、水、空気、それに母なる大地だ。それら無くしては何者も生き残れない。でも、これだけ強大な力をもちながら、これらの要素は1つだけでは命を支えることはできない。水を取り去れば生きながらえるものはない。同じことが他の要素にも言える。なぜなら、生命を維持するためにはすべての力を合わせる必要があるからだ。すべての力を合わせるのは、スピリットの力の働きだ。同じように、すべての人々は、先住民も入植者も、力を合わせなければならない。でも、私たちとスピリットの繋がりは絶えて久しい。どうすれば力を合わせられるか全く見当がつかないのだ。これを早く何とかしなければならない。私たちは力を合わせ、互いに学び合い、どのような形であっても、直面するすべての困難に対処するという希望を持たなければならないのだ」

グレブ・レイゴロデッツキー (Gleb Raygorodetsky) は保全生物学者、フィランソロピック・アドバイザー、研究者。世界中の伝統的コミュニティに居住して活動した幅広い経験を持つ。カナダ・アルバータ州の環境・公園省、環境モニタリング・科学部、先住民族の知識・コミュニティモニタリング・市民科学支局 (Indigenous Knowledge, Community Monitoring and Citizen Science Branch of the Environmental Monitoring and Science Division) の事務局長。本稿は最近ペーパーバッグで Pegasus 社から出版された彼の著書「The Archipelago of Hope: Wisdom and Resilience from the Edge of Climate Change(仮題:希望のアーキペラゴ~気候変動の危機からの知恵と回復力))」から抜粋編集

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Lessons From the Peoples of the Land • Gleb Raygorodetsky

What can we learn from Indigenous cultures about responses to climate change?


310: SepOct2018

リサージェンス & エコロジスト 日本版

リサージェンス誌は、スモール・イズ・ビューティフルを提唱したE.F.シューマッハらが始めた社会変革雑誌で、サティシュ・クマールさんが主幹。英国で創刊50年、世界20カ国に読者4万人。環境運動の第一線で活躍するリーダーたちの、よりよい未来への提言で、考える糧を読者にお届け。また、詩や絵などのアートに溢れているのも特徴。

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