考え方を変える

一連のカラーパネルは、青という色が明るいところから暗いところへ変化する様子を描いています。少なくとも、英語ではそうです。ロシア語では、ゴルビとシニ(それぞれライトブルーとダークブルー)という2つの別々の色になります。認知科学者のレラ・ボロディツキー(Lera Boroditsky)によれば、色のスペクトルを表現する言葉が異なると、知覚の仕方が変わるそうです。明るい青と暗い青を表す異なる言葉を使う人の脳は、色が明るいものから暗いものへと変化すると、まるで『ああ、何か区分できる変化があった』とでもいうように、驚いた反応を示すでしょう」と、彼女は TED Talk で述べています。しかし、英語を話す人の脳はそのような驚きを与えません。「なぜなら、何も区分できる変化がないからです」

 世界には約7,000の言語が存在し、発音、語彙、構造などに大きな多様性があり、その結果、それぞれが周囲の環境と異なる関係を持っています。「言語は、人間の認知能力が世界を認識する多様な方法の証拠です」と、著名な言語学者アンヴィタ・アッビ(Anvita Abbi)は「Outlook India」の記事で述べています。「言語のさまざまな姿は、環境と密接な関係を保つ共同体の生態学的・考古学的な痕跡です」。アッビは、7万年前にアフリカから最初に移住してきた人々のグループから進化した大アンダマン語族を20年かけて記録してきました。今号の「言語」をテーマにしたページで、彼女の仕事をより詳しく見ていきます。

 人類がこの惑星に広がる多様な生命を絶滅させているのと、まさに似たような話ですが、、、非営利団体 Living Tongues Institute for Endangered Languages によると、2週間ごとに、ある言語を流暢に話す最後の一人が亡くなっているそうです。言語は知識を伝達するものであるため、このことは地球上のすべての生命に影響を与えます。パウラ・ザモラナ・オーソリオ(Paula Zamorano Osorio)は、言語ページの序文で次のように述べています。「人々が暮らす場所(森、平原、サバンナ、山、砂漠、ツンドラ)と、その場所で人類が授かるもの(食料、医薬品、気候変動を抑制する真の解決策)についての知識は、私たち全員にとって極めて重要です」

 私たちが選ぶ言葉によって、広範囲に影響を及ぼす可能性があります。エコロジストのページでは、ミッツィ・ジョネル・タン(Mitzi Jonelle Tan)が、国際的な気候変動交渉の場で、どのように言葉を使って遅らせるかという戦術を紹介しています。また「知恵と幸福」のページでは、マーチェル・ファレル(Marchelle Farrell)が庭に種をまく際に、自生種と外来種という概念について考えています。

 話すためには、聞くことも必要です。デイビッド・ジョージ・ハスクル(David George Haskell)は「命のつながり」のページで、私たちを古代の音のルーツに立ち返らせてくれます。「今日、岩石を食べる少数のバクテリアを除いて、すべての生物の声は太陽によって生かされています」と彼は書いています。「人間の言葉も音楽も、この流れの一部です。私たちは、植物が捉えた光を空気中に逃がす音響導管なのです」

 言語を通じて複雑な思考を伝達する私たちの力は、良くも悪くも計り知れませんが、必ずしも私たちを定義するものではないのです。講演の最後に、ボロディツキーはいくつかの質問を投げかけます。言語がどのように私たちの思考を形成しているかを理解することは「『なぜ私はそのように考えるのか』『どうしたら違う考え方ができるのか』と問う機会を与えてくれます。そしてまた『自分はどんな思考を作りたいのか』を問えるのです」と彼女は言います。このように、自分たちの文化の外にある、生きている地球との相互依存を理解することによっても、私たちは考え方を変えていけるのです。

マリアン・ブラウン

リサージェンス&エコロジスト誌の編集者

(翻訳校正:沓名 輝政)

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リサージェンス誌は、スモール・イズ・ビューティフルを提唱したE.F.シューマッハらが始めた社会変革雑誌で、サティシュ・クマールさんが主幹。英国で創刊50年、世界20カ国に読者4万人。環境運動の第一線で活躍するリーダーたちの、よりよい未来への提言で、考える糧を読者にお届け。また、詩や絵などのアートに溢れているのも特徴。

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