希望を持って試練の時を生きる

サティシュ・クマールがジェーン・グドールと彼女の新著について話す。

翻訳:馬場 汐梨、校正 :沓名 輝政

ニューヨーク州のオメガ・インスティテュート(Omega Institute)はこのジェーン・グドールとの会談の機会を私に与えてくれました。彼女は、生態学的な持続可能性と社会的調和の突出した推進派です。彼女は国連ピース・メッセンジャーで、野生のチンパンジーの保護活動家でもあります。

サティシュ・クマール(以降SK):あなたはこの『希望の教室(THE BOOK OF HOPE)』という素晴らしい本を書かれましたね。あなたはどのように希望を維持されているのでしょうか?私たちはパンデミックや気候変動、貧困といった大きな問題に取り囲まれています。あなたはそれでも心から深い希望を維持されていますよね。どのようにされているのですか?

ジェーン・グドール(以降JG):そうですね、まず、私が希望という言葉で意味しているところを説明させてください。希望は受動的なものではありません。私たちは今とても暗いトンネルにいると思いますが、トンネルの終わりには小さな星明かりがあって、それが希望なんです。つまり、私たちはトンネルの終わりに座って光がこちらに向かってくることを望んでいるだけではないのです。そうじゃないんです。私たちは袖を捲って、自分たちと星明かりの間の障害の下を潜り抜けて上を乗り越えて行かねばならないのです。だから希望とは行動のことです。もし希望を失えば、何が困るでしょうか?飲めや歌えや一寸先は闇よ[イザヤ書22:13の Eat, Drink and Be Merry, For Tomorrow We Die の引用]です!希望があれば、行動し、変化を起こしてよい気分になるでしょう。よい気分になればさらにやりたくなり、他の人たちも触発されて、それがいわゆる、進むたびにたくさんの人を巻き込んでいく、外向きのスパイラルですね。

私たちが破壊や憂鬱に取り囲まれていても、素晴らしいこともたくさん起きています。最近では、エクアドルで完全に画期的な決断がなされました。最高の裁判所である憲法裁判所で、自然の権利が支持されたのです。裁判所は政府に、保護されている場所から政府の採掘権を取り除かなければいけないと命じたのです。そしてこれは大きな前進です。このことは私に希望を与えてくれました!もし世界全体が自然の権利を尊重したら、どんな世界になるでしょう!主要な文化にはどれも同じゴールデン・ルール「自分がされたいことを他人にしなさい」があります。もし私たち全員がこのルールを守ったと考えてみてください。素晴らしい世界になるのではないでしょうか?

 私が希望を持つ主な理由の1つは、若者です。何故なら彼らは一度問題を理解すると、行動を起こします。ただ素直にそうしていくのです。私たちの Roots & Shoots(ルーツ&シューツ)のプログラムでは、人々を助けるため、動物を助けるため、環境を助けるために、最も深く感じるプロジェクトを選ぶんです。それらは全て互いに関連しているからです。若者たちは世界を変えていて、両親や、祖父母まで変えているのですよ!

若者は人々と同じように、自然界とスピリチュアルな繋がりを作ることをとても必要としています。私たちはアウトドアでの教育を奨励する必要があります。学校では若者に気候変動についてや、人間が自然に対して行なっている有害なことの全てを伝えなければなりません。

SK:私たちは自然から学び、自然の中で学び、自然について学ぶ必要がありますね。自然は素晴らしい教師です。しかし、自然とのスピリチュアルな繋がりと仰いましたが、どういう意味ですか?一般的に、私たちは環境保護や社会調和を改善しながら、惑星に気を配り、人々に気を配っています。この自然とのスピリチュアルな繋がりというアイデアを広げてもらえますか?

JG:私が外にいる時、特に熱帯雨林にいる時、そして一人で自然の中にいる時、私はその不可欠な一部なんだと感じます。ある日森の中にいた時のことを覚えています。周りにチンパンジーは1匹もいなかったのですが、鳥や虫や美しい葉が見えました。私はひそかに思ったのです。ええ、これが私の周りに感じる自然の素晴らしいスピリチュアルな力だ、そしてこのスピリチュアルな力の火花が個々人にあって、私たちは人間ですべてに名前をつけたがるので、これを魂とか精神とか呼ぶのだなと。そしてまた、そのスピリチュアルな力の火花は一つ一つの植物や、一匹一匹の虫や、一匹一匹の動物にも宿っているのだと、自分の中で思いました。だから、人間が魂を持っているなら、他の全ての生き物も魂を持っているでしょう。自然は生きているのです。自然の中にいることで、宇宙と共にある存在であるというこの素晴らしい気持ちになれますよ。それが、私が自然とのスピリチュアルな繋がりと呼んだものです。

SK:しかし私たちは人新生、人間が作った世界を生きています。都市に住む人々は自然との繋がりはほとんどありませんし、あるとしても人工的な自然です。都市には野生がほとんどないのです。それだけ都市化されている中、人々はどうすれば自然と繋がれるのでしょうか?

JG:私たちは都市を見直し、デザインし直さなければなりません。前に進む道の一つは、都市での植林です。何故なら、木を植えれば都市に自然を持ち込めるからです。木と共に鳥や虫もやってきます。大都市を通過し、裕福なエリアを通過すれば、素敵な並木道を見ることができますし、立派な庭や公園もあります。そのあと、全てセメント、コンクリートで出来ている気味の悪いエリアに出ます。そこは貧しい人々が住んでいるところです。こういうエリアに取り組み、自然を持ち込む必要があります。シカゴである実験が行われました。犯罪の多い2つのエリアを選び、片方を緑化し始め、木や花を植えました。何と、そこの犯罪率が劇的に下がったのです。そこでもう片方の犯罪率が落ちなかった方にも急いで同じことを行いました。そしてまた、そのエリアでも重大なよい変化を見ることができたのです。私たちは都市を緑化する必要があります。日本では、このことが考案され、森林浴と呼ばれています。都市の人々は外で森の中で過ごし、自然の癒す力を経験します。医師は自然の中で過ごすことを指示します。自然には癒す力があるし、自然は治すからです。だから、自然を都市に戻しましょう。自然と文化は必ず共生すべきです。

SK:あなたは人生をチンパンジーの保護に捧げてこられましたし、沢山の保護活動家がサイや虎、象を保護していますが、私たちは都市にもジャングルにも住んでいる、小さな種、虫や花、鳥や他の小さな生き物たちについても気にかける必要がありますね。

JG:そうです。それらの小さい生き物は、実は他の全てのものの土台だからです。私たちの時代の悲劇の一つは、工業的農業で土の生物学的組成を破壊していることです。木を切り倒し、人工肥料で土を殺すことで、生命の自然なバランスを狂わせています。私たちは小規模農業や環境再生型農業、パーマカルチャー、農業生態学に立ち帰る必要があります。それが私たちのすべきことです。世界をよりよい場所にするためにすべきことはわかっていますが、そうする意志はあるのでしょうか?

SK:そうです、あなたも私もわかっていますが、私たちは少数派です。工業的農業を担っていたり、遺伝子工学に関わっていたり、重機や人工肥料、人工知能を生産していたりする大きいビジネスや大企業に目を向けると、彼らは知っているようには見えません。しかし彼らは食品生産を支配しています。そして世界中の政府も知っているとは思えません。では、私たちはどのようにしてこのメッセージを工場農業やアグリビジネスの世界に伝えればいいでしょうか?どのようにして、生態系や野生生物を害せずに食物を生産する必要があると彼らに納得させればいいでしょうか?

JG:そうですね、まず良いニュースから始めましょうか。大企業の中にも、実際に変わり始めているところがあります。ただグリーンウォッシュしているだけではありません。

 つい数週間前にある大企業のCEOと話したのですが、彼は「ジェーン、ここ8年で、私は自分のビジネスが倫理的で、環境に優しくて、社会的責任を果たせるものになるように本気で取り組んできました」と言っていました。彼は3つの理由があったと言いました。「1つ目は、自然が再び満たされるよりも早い速度で天然資源を使っていて、普段通りビジネスを行えば終わりだ、と壁に書かれていたのを見たことです。2つ目は消費者の圧力です。人々は倫理的に生産された商品を求め始めています。若者も子どもたちもそうで、親たちに言うのです。これは要らない、持続可能じゃないプランテーションのパームオイルが使われてるでしょ。それは要らない、工場畜産の動物が使われてるでしょ、と」。そして「私の情勢を本当に変化させたのは10年程前のことです。私の小さな娘が、当時8歳でしたが、学校から帰ってきて言うのです。『パパ、みんながパパのやっていることが地球を傷つけてるって言うの。違うわよね、パパ?だってこれは私の惑星だもん』と」

SK:それはいいニュースですね。しかし全体として世界はまだ生物学的に、生態学的に破壊する習慣を続けていて、欧州連合はそういった大規模で破壊的な農業に助成金を与えています。アメリカやオーストラリアでは工業的なスケールの巨大農場が牛耳っています。あなたと私は家族経営の農業や小規模農業について話しています。私たちはどのようにして大きく広い世界を変えるのでしょうか?それでも希望を持てますか?時間がなくなっています。

JG:ええ、サティシュ。この10年で起きた変化のことを考えれば、それはハッキリしていますよ。パンデミックの間ですら高まってきた意識のことを考えれば、顕著です。自然との違う形での繋がりが必要で、より持続可能で緑の経済が必要で、未来を犠牲にしてでも最も重要なのは毎年のGDP成長だという考え方をやめた人たちの数を考えてみてください。その数は信じ難いほど大きいですし、励みになります。そういった変化が触媒になりつつあり、私に希望を持たせてくれます。

機能しないと私がわかったのは、人々を責めたり罪を着せたりすることです。もし高級官僚やCEOにアプローチして、彼らが悪い人だとか、自分のしていることを理解していない、彼らは変わる必要がある、変わらなければならないと言うなら、それは建設的なアプローチとは言えません。その時点で彼らは聞こうとしないでしょう、なぜなら彼らは、どう反論できるだろう、なぜこの人に私のしていること全てが悪いと言われねばならないのかと考えるからです。しかしもし彼らの内に入り込む方法を見つけて彼らの心を開くことができれば、彼らを変えるチャンスを得られます。本当の変化は内側から起こるものだからです。

SK:賛同します。私たちの行動主義は愛に突き動かされるのですから ー 怒りではなく、恐れではなく、不安ではなく、説教ではなく、愛によってです。

JG:そう、それが希望のあるところです。私はいつも人々に疑うことの利点を伝えています。多分彼らは本当に無知で、多分理解していないのでしょう。実業家たちの中には、この厳しいビジネス環境の中で、残酷な世界の中で育てられ、本当に自分のしていることを考えたことがない人がいて、だから彼らに光を見せるというのは大きな仕事なのです!人々への思いやりの気持ちを持たなければなりません。心に愛を持たねばなりませんし、彼らの心と繋がろうとし、自然を大事に思うことが最高の利益なのだと理解する手助けをしなければなりません。そうすれば彼らも気が晴れて変わってくれるでしょう。これが世界を変える非暴力な方法です。


サティシュ・クマールは『エレガント・シンプリシティ: 「簡素」に美しく生きる』の著者。

ジェーン・グドールの、ダグラス・エイブラムスとの共著『Book of Hope: A Survival Guide for an Endangered Planet(邦題:希望の希望の教室』のレビューはこちら。サティシュ・クマールとジェーン・グドールの全ての会話を聞き、本インタビューの長文版を読みましょう。www.janegoodall.org.uk。

定期購読はこちら。

リサージェンス & エコロジスト 日本版

リサージェンス誌は、スモール・イズ・ビューティフルを提唱したE.F.シューマッハらが始めた社会変革雑誌で、サティシュ・クマールさんが主幹。英国で創刊50年、世界20カ国に読者4万人。環境運動の第一線で活躍するリーダーたちの、よりよい未来への提言で、考える糧を読者にお届け。また、詩や絵などのアートに溢れているのも特徴。

0コメント

  • 1000 / 1000