レジリエントな未来のための食の森

アグロフォレストリーは、中央アメリカの土地に生命を取り戻すのに役立っているとヤスミン・ダノウンが報告。

翻訳校正:沓名 輝政

森や林、熱帯雨林を歩いていると、協力し、コミュニケーションをとり、共存している生物の個体を目の当たりにすることができます。注目すべき面が、常に起こっています。樹冠の下には、低木や草などの植物が絡み合っています。地下には人間の脳のシナプスにも似た菌糸ネットワークがあり、死がいを分解し、地面の下の根に栄養を与え、土の中に水分を閉じ込めています。

 熱帯雨林は地球上で最も生産性の高い生態系ですが、私たちは食料を育てる際に逆のアプローチをしています。農薬や除草剤、遺伝子組換え作物の使用と並んで、毎年何十億リットルもの水を必要とする家畜や単一作物栽培のために、広大な森林を切り開いて燃やしているのです。農民の世代は絶望のあまり土地を捨て、過密な都市に逃げ、かつて大切にしていた土地を枯渇させたままにしています。

 しかし、2つのプロジェクトのおかげで、アグロフォレストリーシステムが土地に生命を取り戻すのに役立っているのです。

Contour Lines

 グアテマラのリビングストン近郊にあるタタン村では、Contour Lines によって、果樹や豆類、一年草などを丘の輪郭に沿って並べる農業の改革が進められています。このプロジェクトによると、根系は雨水の流出や土壌浸食を防ぎ「時間をかけて肥沃な段々畑を作る」のに役立つそうです。また、植物は炭素を固定し、地域社会に多様な食料を提供します。これまでに125の村に40万本以上の木が植えられました。

 ケクチ(Q’eqchi’)族の23歳の農民であるフアン(Juan)は、リサージェンス & エコロジストにこう語っています。「このプロジェクトが始まる前、私はここを離れるつもりでした。でも、若い人たちがこのようなプロジェクトを自分のコミュニティで目にするようになったら、ここに残ろうと思うかもしれません。私たちの主食であるトウモロコシなどの作物は、以前のように育たないのです。私と同年代の人たちは、村を出て、代わりに都会で仕事を見つけたいと考えているのです」

 フローリー・コック(43歳)は、生まれてこのかたずっと農場で働いてきました。食の森(フードフォレスト)の導入で、これまでの農業がどのように変化したかを教えてくれました。

 「グアテマラの女性たち、特に私のケクチ族仲間は、土地の耕作に従事しており、これは土地と深く結びついている私たちにとって非常に有益です」と彼女は言います。「食物を育てるのは女性の力だと断言できます。森で食物を育てることは、肉体労働を減らすことになり、私たちの生活をより楽にしてくれます。私たちは現在、別の解決策を探そうとしています。単一栽培として一つの作物だけに専念していると、高価な肥料が足りずに失敗することがあります。この方法では、大地の栄養分が失われてしまいます。また、殺虫剤も使わざるを得ません。フードフォレスト・プロジェクトを通じて、私たちはより多くの植物に変化を与え、その成長を促すことで、コミュニティとしての私たちの食料にもなるのです。そして、毎回同じ区画を使うことができます。コミュニティ全体がこの移行に参加しているのです」

インガ財団

 マイク・ハンズ(Mike Hands)は熱帯生態学者であり、隣国ホンジュラスのインガ財団(Inga Foundation)の創設者兼ディレクターです。地元コミュニティと密接に連携し、インガ・アレイ・クロッピング[樹木の列の間に作物の列を作る方法]と呼ばれるアグロフォレストリー・システムを普及させ、森林破壊に立ち向かっています。

 1980年代にアフリカで行った現地調査では、目の前で森林全体に煙が立ち込めるという、つらい経験をしましたが、これは、農民が焼畑技術を使って作物を植えていたためです。ハンズは「広大な森林が草に変わっていくのを見たのです」と振り返ります。現在、世界人口の約7%が焼畑を利用していて、その結果、木が蓄えていた炭素が、脅威的な速さで、大気中に放出されてしまうのです。

 「湿度の高い熱帯地方では、持続可能な農業はほとんど存在しない。これは、私が80年代に取り組もうとしていた問題です。なぜ、そうなったのか?」とハンズは問いかけます。「熱帯雨林という生物学的に最も成功した生態系がありながら、人々は焼き畑に走っている。それではうまくいかず、人々は貧困のどん底にはまったままなのです」

 ハンズが推進するアグロフォレストリー・システムは、カカオやコーヒーなど他の作物と一緒にコンパニオンプランツとして栽培されるインガを基準にしています。インガ[マメ科インガ属常緑高木]は「脇役として着実に育ち、農家が売れるものです」とハンズは説明します。

 インガは窒素を固定し、結実する木なので、土壌に栄養を与え、根を保護し、天然の害虫駆除の役割も果たします。また、薪にもなるため、村人が森に侵入するのを防いでくれます。

 ハンズは言います。「初めて人々は作物を再生産できるようになった。これは画期的なことでした」また言います。「農家の人たちには、必要なものはすべて提供できるが、うまく収穫できるまで2年待たなければならない、と伝えました。しかし、それを知ってもなお、彼らはこのシステムを望んだのです」

 パイロットプロジェクトでは、エルニーニョ現象などの暴風雨に直面しても、インガ・アレイ・クロッピングの回復力が実証されています。インガ・アレイは、天候の変化にはるかに耐えられることが証明されました。

 「エル・ニーニョは、斜面における慣行農法の作付けのピークをことごとく引き裂き、その後9週間にわたって干ばつが続き、斜面における慣行農法の収穫のほとんどが失敗に終わりました。生き残ったのはインガを植えた列だけでした」とハンズは言います。

 この区画の成功を見て、近隣の多くの家庭がこの技術に目を向けています。

 「今クリティカルマス[爆発的普及への分岐点]を目の当たりにしていて、多くの家庭が自分たちの手でこの技術を広めています。現在、約700世帯がインガ・アレイを実践しています」とハンズは言います。

 キュー王立植物園(Kew Gardens)やエデン・プロジェクト(Eden Project)といった組織からの資金援助を受けて、財団は現在、カカオ、ランブータン、マホガニー、そしてもちろんインガを含む7万5000本以上の苗木を保持しています。

 一般的にフォレストガーデンは、歴史的に世界中のコミュニティを支えてきた古代の慣習であると考えられています。アマゾンでは、科学者による最近の研究により、こうした先住民族の農業技術の名残が「(コロンブス以前の)遺跡上および周辺の森林における家畜化された種の相対的な存在量と豊かさの増加」など、現在の森林に痕跡を残していることが、雑誌『サイエンス』に掲載された論文で示されています。Nature Plants 誌に掲載されたアマゾン東部での別の研究では、ポリカルチャー・アグロフォレストリーの採用は「複数の一年生作物の栽培と食用森林種の段階的な充実、水生資源の利用を組み合わせた」複雑な社会の発展とともに、約4,500年前に始まったことが記録されています。

 気候破壊の下で農業システムが崩壊する中、食料不足は多様性の喪失の不可避な部分です。この2つのプロジェクトは、アグロフォレストリーの技術を使い、単一栽培に取って代わることで、土壌を養い、人々に食を与える、強固で回復力のある解決策を提供できることを示しています。

www.contourlines.org

www.ingafoundation.org

ヤスミン・ダノウンは、リサージェンス & エコロジストの編集チームのメンバー。ツイートは @dahnoun_

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リサージェンス誌は、スモール・イズ・ビューティフルを提唱したE.F.シューマッハらが始めた社会変革雑誌で、サティシュ・クマールさんが主幹。英国で創刊50年、世界20カ国に読者4万人。環境運動の第一線で活躍するリーダーたちの、よりよい未来への提言で、考える糧を読者にお届け。また、詩や絵などのアートに溢れているのも特徴。

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