グローバルに考え、ローカルに動け?

気候変動が未だに取り組まれずにいて、貧富の差が拡大し続けている中、私たちは変化を起こすためのグローバルに協調したアプローチが必要です、とジョン・バンズルとニック・ダッフェルは述べています。

翻訳:馬場 汐梨

持続可能性に向けた実践的な取り組みの話になると、グローバル・ジャスティス運動を作る多くのNGOや活動家グループにとって、伝統的にローカルな取り組みが優先されてきました。1973年にフリッツ・シューマッハの世界的に有名な本「スモール・イズ・ビューティフル」が確立したのが、より小さく、より人間サイズへの方向性であり、それ以来、地域の小さいスケールの個人の対応が正しいとなっているようです。「グローバルに考え、ローカルに動け」は、私たちのムーブメントとなっています。

 しかし50年程たった今、経済市場から「ビック・データ」に至るまでほとんどすべてのもののスケールがグローバルになり制御不能になっている世界で、この方向性は今でも意味を成しているでしょうか?それは持続可能性や社会正義をもたらしたでしょうか?小さな成功がいくつかあるかもしれませんが、残念なことに正直に言うと答えは「いいえ」です。グローバル化する新自由主義の絶対的な力に何ら深刻な影響を与えられていないのです。つまり気候変動は実質取り組まれていませんし、富の不平等も拡大し続けています。また、環境は驚きのスピードで悪化し続けています。

 私たちの新しい著書、『Simpol解決策-世界の問題を解決するのは思っているより簡単かもしれない(The Simpol Solution: Solving Global Problems Could Be Easier Than We Think)』では、私たちは新しい、そしてグローバルな政治的戦略が今すぐ必要だと提言しています。それは、国境を越えた抗議運動やロビー活動を超えるものです。長い間、私たちはローカルな活動が「変化になる」ための唯一の方法であると信じて、グローバルをローカルに対抗させてきました。しかし現在の世界では、私たちの著書が主張するように、その考え方によって私たちは古くからある二分極化の「どちらか」という反抗的な考え方の罠に嵌っており、「どちらも」という純粋で包括的な解決策を想像することができなくなっているのです。「どちらも」の世界観はこの二重性を解消し、グローバルとローカルが補完的になり互いに補い合うようになります。Simpol戦略は広く、二分極化していない「どちらも」の方向を導きます。そしてそのことによって、私たちの問題のグローバルで体系の性質が、グローバルで協調的な政治的アプローチを必要とすることがわかります。またそのアプローチは、ローカルな活動をサポートし、可能にするのです。

 「グローバルに考え、ローカルに、そしてグローバルに動け」が私たちの新しいマントラとなるべきです。これはトリックなんかではありません。グローバルな新自由主義の絶対的な力を動かしているキーとなる根本的な原動力に気付けば、グローバルな活動の必要性は明白です。気候変動から富の不平等まで、あるいはタックス・ヘイブンへの行き過ぎた企業の力まで、ほとんどどんなグローバルな問題でもいいので取り上げてみましょう。それらは全て共通の障壁があることがわかります。それは、どの国であってもこれらの解決や改善を図って単独で行動すれば国家の経済的な競争力の不利をもたらしてしまうということです。これらの問題を解決することは必然的により厳しいビジネスの規制や富豪や企業へのより高い税金を意味するからです。

 これは論理的で望ましいことと考えるかもしれませんが、そうした政府はビジネスや投資、そしてたくさんの仕事を他へ持っていかれてしまうのを目の当たりにするでしょう。その経済は苦戦し、通貨は滑り落ち、次の選挙では負けてしまうでしょう。政府が行動を起こさないことは不思議ではありません。根本的なファクターは、どの国も最初に動くことを恐れていることです。著書で私たちが「破壊的な世界的競争(Destructive Global Competition)」(DGC)と呼んでいる卑劣な環です。

 私たちは運動としてこの問題を起こした共犯となったのは、DGCの現実を否定してきたことです。私たちは環境に優しくすることで私たちの経済はもっと競争力をもつというようにふるまい、国家が国際競争力を失うことを恐れているということに目をつぶってきました。新しい環境に優しい技術に投資することで私たちの国の経済が世界をけん引しイギリスに仕事を取り戻すと言い聞かせてきました。このことは限られた状況、例えば風力発電等では正しかったのかもしれませんが、それが一般的に正しいと言うことは愚かです。現在の市場状況においては、どんな新しい技術も必然的に賃金が最も安いところで大量製造されることになるのです。つまり、長い間利益があるのはほとんどの場合中国においてなのです。

 国際競争力についての私たちの他の考え方は善意的でしたが不十分なものでした。それは、2015年の気候変動に関するパリ協定のような国際的合意が効果をもたらすのではないかという希望です。正しい理論は、もしすべての政府が共に行動すれば誰も競争的な不利に苦しまずに済むということです。ですから、パリ協定は正しい方向への一歩でした。しかしそれは2つの致命的な欠陥を含んでいました。まず、中国のような最も排気ガスを削減すべき国は他の国より失うものが大きいので、おそらく実際にはその協定はあまり実施されないだろうということです。二つ目は、政府が公約で述べることに対する選挙上の直接的な圧力がないということです。余分にコストのかかる規制措置を施行しないことで国益を守っても、票を失う政府はいないでしょう。DGCが揺らいでも、そのような協定はおそらくそれらが印刷されている紙ほどの価値しかないのです。

 DGCを完全に理解することでどのようにグローバル・ジャスティス運動の戦いは変わるのでしょうか?重要なことに、政府は私たちが関心を寄せている問題や不平等に取り組みたくないわけではなく、その経済の国際的競争力を守る最高の必要性がそれをできなくしているということを私たちは認識しなければなりません。DGCの真実の認識や理解を誤って、私たちは事実上グローバルな問題の解決を阻む重要な障壁を無視してきたのです。抗議運動やロビー活動を好きなだけ行っていましたが、悲しいことに政府は自国の経済的利益に反して行動できないということが現実でした。

 政府は正しい方向に踏み出せないという意味ではありません。本当に重要な大きな一歩となると、動かなくなってしまうというだけです。そして時間は迫っています。では、私たちの主な敵は手ぬるい政府や強欲な企業ではなく(それらも存在はしますが)、政府や企業、そして私たちのような市民がとらわれてしまうDGCの卑劣な環なのです。

 さて、基本に立ち返りましょう。グローバルな卑劣な環は同スケールの運動によってしか倒せません。それがSimpol解決策が提案することです。Simpol-同時の(Simultaneous)政策(Policy)-は全てあるいは十分な国家が同時に実施するグローバルな問題解決の政策の集まりのことです。同時に、というのはこの方法によってのみDGCの卑劣な環は駆逐されるからです。同時一斉の行動はそれぞれの国家の勝利を意味します。Simpolをサポートすることで、世界中の市民は自国の政治家に将来の選挙においてSimpolの実施を約する誓約に署名した候補者が大きな票を得ることができると伝えることができます。署名した政治家が支持され、拒否した者は議席を失うリスクがあります。多くの議席、あるいは全体の選挙さえも見事な票差で勝ち負けをもたらすでしょう。Simpolのターボチャージャーがついた政党間の争いでは、一方の選挙区の候補者が署名すれば、他の候補者たちも従う他選択肢はないのです。

 そしてそれは効果があります。2015年のイギリス総選挙の準備期間、支持者たちは全主要政党の600人以上の候補者に誓約に署名させることに成功したのです。彼らのうち29人が国会議員になりました。いくつかの議席では、ほとんど全ての候補者が立ち上がって署名しました。つまり、誰が議席を勝ち取ろうとSimpolは勝利したのです。最近のアイルランド総選挙では14人の国会議員が署名しました。たくさんの議会議員も署名し、その運動は他の国々へと急速に広がっています。Simpolは間違いなく難しいことです。しかし、ノーム・チョムスキーが述べたように、「うまくいくでしょうか?きっと真面目に取り組んでみる価値はあります」。政府が争い合う立場から抜け出せず、国連が手助けできないのであれば、それを支持することで私たちは何か失うものはあるでしょうか?

 私たちはそれはフリッツ・シューマッハー自身も支持していた運動だったかもしれないと感じています。実は、グローバルをローカルの対極に位置すると考えるどころか、彼はそれぞれが役割を持っていると認識していました。彼が『スモール・イズ・ビューティフル』

で述べているように、「私たちはたくさんの小さくて自律的な群の自由が必要で、同時に、大規模で、多分グローバルな団結と協調関係の秩序も必要です」。私たちは私たちの活動をやその方向性、運動の方法を考えるときに、彼の言葉通りに取るときではないでしょうか?

ジョン・バンズルとニック・ダッフェルはピーター・オーウェン著『Simpol解決策-世界の問題を解決するのは思っているより簡単かもしれない』の共同著者です。


Article - Think Globally, Act Locally? • John Bunzl & Nick Duffell

In the face of climate change, we need a coordinated approach to make a change

303: July/Aug 2017

リサージェンス & エコロジスト 日本版

リサージェンス誌は、スモール・イズ・ビューティフルを提唱したE.F.シューマッハらが始めた社会変革雑誌で、サティシュ・クマールさんが主幹。英国で創刊50年、世界20カ国に読者4万人。環境運動の第一線で活躍するリーダーたちの、よりよい未来への提言で、考える糧を読者にお届け。また、詩や絵などのアートに溢れているのも特徴。

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