身心を弾ませて木々を称える

マリアン・ブラウンは、ロンドンでの新しいプロジェクトについて報告します。

翻訳:馬場 汐梨

セイヨウカジカエデの下に立つと、そよ風で動くメタルのウインドチャイムのようなチリンチリンという音が聴こえます。イチイの木に向かって移動すると、平らなベルのような音です。一歩動くとまた変わります。あなたは「Music for Trees(木々のための音楽)」を聞いているのです。それは、ロンドンのロイヤルパークによって運営される新しいプロジェクトで、携帯電話の技術を使って、来た人に木々と共に過ごす変わった体験を提供するものです。

 そのプロジェクトはロイヤルパークの樹芸家のマット・シュタインマン (Matt Steinmann) によって始められました。「私は調査をするとき、よくラジオを聴くんです。私は一本一本木を見て、とても方法論的なプロセスとして、時には一本の木を 2 分間見て、時には一本の木を 10 分間見る時もあり、それはとても瞑想的なプロセスです」と彼はリサージェンス&エコロジスト誌に語ります。「折りを見つけて私は木の下に立って樹冠をじっと見つめ、葉の間から漏れて差し込む光を見て、そしてちょっとした音楽がちょうどいいんです。音楽を段階的にしたり多層的にしたりするアイデアにすぐに興味を持ちました。スティーヴ・ライヒやフィリップ・グラスのような作曲家がそういうアイデアを持って演奏します」

 彼はその体験を来る人たちにシェアしたいと思い、マイクを木に付けたりライブミュージシャンに木々の下に配置したりして愉しく試したあと、位置情報を扱う技術を利用してその作業を代わりにやってもらうというアイデアに落ち着きました。位置情報アプリは、Google Map や Waze のような、GPS の位置に基づいて情報を伝えるアプリです。「それをロードしてポケットに挿しておけば、あなたの位置情報が勝手に画面に再生させます」とシュタインマンは言いました。

 彼はロイヤル・アカデミーの近くの 6 人の学生に 30 種類の木々用に作曲してくれないかとお願いしました。それは公園の一部の 150本 に適用することになります。訪れた人々がそのアプリを使って木々に近づくと、ヘッドフォンから曲が聞こえてきます。人々が違う木と木の樹冠が交わる下を通ると、これらの曲が織り交ぜられます。つまり、違う方向から木に近づくと、毎回わずかに異なって聞こえるという意味です。

 それぞれの曲は 30 秒から 90 秒の幅で、ループ再生されます。違う時間でループするので、作曲家たちには面白い挑戦となります。「どの一瞬を捉えても全体の音楽をコントロールすることができません」とプロジェクトに参加している学生の一人であるアイザック・オリバー・ショートは言います。「私にとって今までやってきたどんなこととも違いました」と付け加えました。「作られた曲を聴いて木に関連付けるのは面白いのですが、まず木からスタートするというのがアイデアとしてとても変わっています」最初からただ木々を訪ねてその感覚的な体験を得、木々を調べ、写真を撮って、木々の下に座り、そして曲を作ります。「木の下で曲を書くのは本当に木を反映したものを作るのを手助けしてくれるように感じました」

 しかしヘッドフォンをつけると、木々と共にいる体験の最も重要な部分を事実上弱めるのでは?「全くそう思います」とシュタインマンは言います。「そうしているのです。それは有機的な反応ではありません。説話的な反応です。ストーリーテリングです。そしてそれは人間でいることの重要な部分なのです」

マリアン・ブラウンとマット・シュタインマンと司会者のアマンダ・カーペンターがこのプロジェクトについて、プラネットポッドというポッドキャストで対話しているのを聞くことができます。www.theplanetpod.com/

A Moving Tribute To Trees • Marianne Brown

316: Sep/Oct 2019 

リサージェンス & エコロジスト 日本版

リサージェンス誌は、スモール・イズ・ビューティフルを提唱したE.F.シューマッハらが始めた社会変革雑誌で、サティシュ・クマールさんが主幹。英国で創刊50年、世界20カ国に読者4万人。環境運動の第一線で活躍するリーダーたちの、よりよい未来への提言で、考える糧を読者にお届け。また、詩や絵などのアートに溢れているのも特徴。

0コメント

  • 1000 / 1000