未知なることだらけ

私たちがマッピングしたのは海洋のごく一部であり、この生態系についてはまだほとんどわかっていない。メリッサ・ホブソンが報告。

翻訳・校正 :沓名 輝政

私は海を専門にするつもりはなかった。ただ、成り行きで。浅瀬でのんびりと泳ぎ、足を下ろそうとしたとき、底に着くことができず、思ったよりも遠くまで来てしまったことに気づいたようなものだ。

 水中世界について書くというのは、あまりに特殊なニッチ分野のように思えるので、積極的な選択ではなかったと言うと、たいていの人は驚く。スキューバダイビングをやっていた私は、初めて水深18メートルまで潜り、頭上で渦を巻くサメや、近くの岩棚の下でうたた寝するカメ、ひらひらと舞う無数の魚を見た瞬間、海に恋をした。

 その瞬間、私は海への憧れを抱き、その後、私のキャリアは海へと近づいていった。ニッチになろうと意識した瞬間はなかった。ただ、そうせずにはいられなかったのだ。The Ocean Writer Ltd. を設立する頃には、私はすでに、できる限り海について書いていた。

 でもなぜ?私がタラソフィル(海との深いつながりを感じる人)であることは間違いないが、それ以上だと思う。海には答えのない疑問がたくさんあり、私の中の探偵はそのすべての真相に迫りたいと思っている。

 『Seabed 2030』によると、海底の24.9%しか地図が作成されておらず、科学者たちは、海に生息するほとんどの生物種がまだ記載されていないと考えている(2011年の未知の海洋生物種の予測値では91%という高さ)。広大な海は謎に満ちており、何が解明されるのか、糸を手繰り寄せずにはいられない。

 私は最近、伝説の海洋学者シルビア・アールに会う幸運に恵まれた。彼女は何千時間にもわたって水中を探検し、調査を行ってきた。88歳にして、未だに疑問を抱いている。たとえば、マグロのような回遊種がどうやって広大な海を旅し、正確に故郷を見つけるのか。

 海洋研究者に尋ねれば、彼らもまた解決したい海の謎を抱えていることだろう。たとえば、マンタ・トラストのモルディブ・マンタ保護プログラムでラーベシ・プログラム・コーディネーターを務めるモハメド・ファウズ・ファトヒーは、モルディブのマンタの個体群がどこから来てどこへ行くのか、スリランカの個体群とつながりがあるのかを知りたいと考えている。

 モルディブのマンタの数は世界で3番目に多く、950匹以上が記録されているとファトヒーは言う。その85%以上が南部のフバムラ環礁周辺に集まり、ダイバーが1ダイブで5~7匹のマンタを見ることができる時期が毎年2~3週間ある。

 「注目すべきは、これらの目撃例の90%以上がこれまで記録されていなかった個体であることで、この地域に数時間滞在しただけで優雅に姿を消すという、この生物の一過性の性質が浮き彫りになっています」とファトヒーは言う。もし彼らがスリランカにやってきたら、毎年鰓板目当てに狩られる千数百匹のマンタの仲間入りをしてしまうかもしれません」。この謎めいた動物を適切に保護するためには、正しい知識が必要だ。

 プリマス海洋研究所のプランクトン生態学者ケヴィン・フリンもまた、彼の深い好奇心を追っている。彼は研究で、ミックスプランクトンのパラダイムと呼ばれるものを探求することに引き込まれた。私たちがプランクトンについて知っていると思っていたことの多くが間違っていたことがわかったのです」

 「この10年間で、光合成をするプランクトン(植物プランクトン)の多くが、海洋科学が前世紀から考えてきたようには成長していないことに気づいたのです」と彼は説明する。「彼らは陸上植物のように二酸化炭素を固定するだけでなく、バクテリア、競争相手、時には捕食者までも食べてしまうのです」。これらの混合プランクトンの中には、光合成だけでなく、食べることによって栄養を得ることができるように、他のプランクトンから体の一部を盗むものさえいる。この発見は、海洋生態系がどのように機能しているかというクールな新事実を与えてくれただけでなく、オープンマインドを持つことの重要性を浮き彫りにしている。

 この発見には狼狽した。「海洋科学が、このような自然の基本的なトリックの重要性を海洋全体で見逃してきたとしたら、他にどんな発見が待っているのだろう?」

 知れば知るほど、筋書きは濃くなっていくようだ。科学者たちは最近、シャチがホホジロザメを殺したという初めての記録を確認した。同様に、ザトウクジラがセックスをしているところを初めて記録したのも最近のことで、それが2頭のオスであることがわかったため、研究者たちは、彼らは社会的な絆を深めるためなのか、優位性を示すためなのか、それとも別の何かなのか、と疑問を投げかけた。それぞれの答えがまたクリフハンガー[最後まではらはらさせる筋書きのドラマ]となり、私たちにさらなる欲求を抱かせる。

 私たちが見落としていることはまだたくさんある。ジンベエザメやマンタがどこで出産するのか、専門家たちはまだ知らないのだ。モルディブ・マンタ保護プログラムのインターンであるフマーム・ニハドは、この疑問に対する答えと、ジンベエザメの幼魚が一生の最初の数年間を過ごす場所を知りたいと考えている。その答えを見つけることは保護にとって重要なことだと彼は説明する。「どちらの動物も野生で出産しているところを見たことがないので、絶滅の危機に瀕している動物がこれらのライフステージで使用する場所を保護することが極めて重要なのです」

 種がどの生息地をどのように利用しているのかがわからなければ、どうやって重要な生態系を適切に保護し、回復させることができるだろうか?同様に、生物多様性が人間活動や気候変動の影響をどのように受けているのかがわからないのに、どうやって生物多様性を人間活動や気候変動の影響から守ることができるのだろうか?

 私と同じように、世界中の科学者や自然保護活動家たちが、海に潜む不可解な謎の答えを探し求めている。そして、海が地球上のすべての生命を支えている以上、それは不可欠なことなのだ。

メリッサ・ホブソン(Melissa Hobson)は海洋科学、自然保護、持続可能性を専門とするフリーライターで。15年ほど前にスキューバダイビングを習って以来、海に魅了され、それ以来海から離れられなくなった。www.melissahobson.co.uk

リサージェンス & エコロジスト 日本版

リサージェンス誌は、スモール・イズ・ビューティフルを提唱したE.F.シューマッハらが始めた社会変革雑誌で、サティシュ・クマールさんが主幹。英国で創刊50年、世界20カ国に読者4万人。環境運動の第一線で活躍するリーダーたちの、よりよい未来への提言で、考える糧を読者にお届け。また、詩や絵などのアートに溢れているのも特徴。

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