強欲でなく必要十分に!

サティシュ・クマールは、賢明な父ヒララルのことを思い出している。ジュートを調達・販売するビジネスマンとしての彼の第一の目標は、自分が奉仕するコミュニティを創造し、大切にすることだった。

翻訳・校正:林田 幸子・沓名 輝政

私の父、ヒララルはビジネスマンでした。ジュートを扱っていました。彼は農家を訪ね、彼らの家に泊まり、彼らと食事をし、トランプをし、そして彼らからジュートを買っていました。価格が決まると、ジュートは牛車の長い列で彼の倉庫に運ばれました。ジュートが運ばれるとすぐに、その牛車の運転手たちを、バスマティライスとレンズ豆と野菜で作ったソース、ヨーグルト、パパド、ピクルスなどの昼食に招待しました。父と母はいつも寛大なホストでした。

 ヒララルは簡単な加工を施した後、ジュートを職人に売り、職人は工房でジュートを袋、マット、カーペット、バッグなどの製品に加工しました。

 かつて母は父のビジネスの実践について話してくれたことがありました。母によると、父は意図的にビジネスを小さくしていたそうです。20~25軒の農家から定期的に麻を仕入れ、同じくらいの数の顧客に、やはり定期的に麻を売っていました。

 彼女は、ある顧客が父に事業を大きくするよう助言したことを思い出しましたが、父はこう答えました。 「私は農家や顧客と個人的に付き合いたいんだ。今のところ、生産者と職人を合わせて50人ほどと定期的に取引をしている。もし私のビジネスが大きくなれば、その個人的な触れ合いが失われてしまうじゃないか!」

 「でも、ビジネスを拡大すれば、より大きな利益を得られるんだよ」と顧客は言いました。

 父はこう答えました。「いや、私は単に利益を上げるためにビジネスをやっているのではないんだ。もちろん、帳尻を合わせて支払能力を維持するためには、それなりの利益を上げる必要がある。でも、人生には経済的利益を増やし続ける以上のものがあるんだよ」父は続けて言いました。 「最適な収入というものがあってね、それは私や家族の身体的、物質的なニーズを満たすために必要なものだ。もちろん、日々の出費を心配することなく、快適に過ごしたい。でも、その最適な経済的利益を超えて、より多くのお金がより多くの幸福をもたらしてくれるわけではないのだよ」

 「収入と利益を最大化するためにビジネスをやっていないのなら、なぜしているの?」

 「友達を作るために仕事をしているんだよ!」と父は答えました。

 顧客はこの答えに驚きました。「でも、ビジネスの目的は、収入を増やし、富を増やすことでしょう?」

 「私は違うよ!」父は答えました。「利益を上げることは、目的を達成するための手段に過ぎない。目的は人間関係を豊かにすることなんだ。人間関係の最高の形は友情だ。だから私は友人を作るために仕事をしているんだよ」

 「友情が目的なら、ビジネスをせずに友人になることはできないのですか?」と顧客が尋ねました。

 「友情と仕事上の関係を分けて考えることはしない。ビジネス上、私は農家や職人の顧客を必要としている。そして彼らも私を必要としている。私たちは互いに生計を立てている。そして同時に、私たちは友人でもある。私たちは互いを知り、互いの面倒を見る。困ったとき、困難なとき、私たちは互いに支え合う。私たちは小さな人間社会の一員なのだから」と父は説明しました。

 母はこう付け加えました。「ヒララルは仕事をするとき、2つのことを心に留めていたの。まず、正しい生計を立てること。私たちは皆、生きるために働く必要があるの。良い仕事は、健康な身体と健全な精神のために必要なもの。良い仕事は、家族や自分自身の必要を満たすためにも必要だから。しかし、あなたのお父さんには2つ目の目的があって、それは地域社会に貢献すること。ビジネス活動の背後に奉仕の意識を持っていたの。そこには、顧客を友人にすることも含まれていてね。このように、彼にとって、生計を立てること、地域社会に貢献すること、そして友人を作ることは、すべて一体のものだったのよ。さらに、家族のため、自分のため、散歩のため、音楽のため、精神修行のための時間を常に持っていたの。お父さんは決して仕事で忙しすぎることはなかったのよ!」

 「それでお父さんは、私たちの地球にほとんど負荷を与えることなく、そのすべてを成し遂げたんだね」と私は言いました。

 母は言いました。「その通りよ。結局のところ、地球は私たちの命の永遠の源なの。地球は私たちみんなを平等に養ってくれる、差別することなく。だからお父さんにとって、友人たちのコミュニティを大切にすることと、農家が土地を大切にすることを手伝うこと、この2つの側面が1つの現実の中にあったの。彼にとって、人間と自然、人間と地球の間に隔たりはなかったの。マハトマ・ガンジーの『母なる大地はすべての人の必要を充分満たすが、すべての人の強欲まで満たすものではない』という教えに、あなたのお父さんは従ったのよ。」

サティシュ・クマールは『Radical Love』の著者。

リサージェンス & エコロジスト 日本版

リサージェンス誌は、スモール・イズ・ビューティフルを提唱したE.F.シューマッハらが始めた社会変革雑誌で、サティシュ・クマールさんが主幹。英国で創刊50年、世界20カ国に読者4万人。環境運動の第一線で活躍するリーダーたちの、よりよい未来への提言で、考える糧を読者にお届け。また、詩や絵などのアートに溢れているのも特徴。

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