親密な関係の構築:自分たちの街を我が家のようにする

キム・サムエル (Kim Samuel) は、都市計画は社会的孤立をなくすことに重点を置かなければならないと主張。

これまでの世代の建築家は「建築によって世界を説明する方法」を考えましたが、今こそ「建築によって世界を変える方法」を考える時だと思います。私たち建築家はそうした役割を引き受け、人々の生き方や行動の仕方に真の変化をもたらすことができます。

– ジャンカルロ・マサンティ

(Giancarlo Mazzanti)

大都市の人口急増が目の前に迫っています。国連によると、2050年までに地球の人口の3分の2が都市に住むと予想されています。この都市への人口移動は人口増加と相まって革新的な影響を与えるでしょう。この先35年の間に、世界の都市人口はさらに25億人増加すると予測されています。

 都市住人の増加は人類発展の弾みになるかもしれません。都市は基本サービスへのより良好なアクセスや、より多くの雇用機会を提供することができます。都市は効率と改革を促進することができ、多くの場合、知的・文化的な豊かさの中心となります。加えて、人口が集中して生活すると、環境的に格段に持続可能になる傾向があります。例えばシンガポール(540万の人口を抱える都市国家)は、都市インフラによる公衆衛生や下水処理などの課題への貢献を反映し、2014年環境パフォーマンス指数 (EPI) で上位5カ国に入りました。

 とはいえ、細心の注意を払わなければ、現代的な大都市は健全なコミュニティの代名詞にはならないでしょう。十分な研究により、スプロール現象(都心部から郊外へ無秩序・無計画に開発が拡散していく現象)や車への依存の増加が、いかに運動の機会を減らし、そしてそれがいかに人々の健康に影響を与えるかが示されてきました。1つだけ例をあげるとすれば、ユタ大学が実施した研究で、徒歩で容易に歩き回れるコミュニティに住む人々は、そうでないコミュニティに住む人々と比較して6~10ポンド(約2.7~4.5kg)体重が少ないことが示されました。

 さらに、考えなければならない別の種類の重荷があります。それは全ての人に負担を与える可能性のある重荷です。それは人々の幸福感を押しつぶす重荷であり、将来への希望を制限するものです。これが耐え難い社会的孤立の重荷(社会的なつながり、顔の見える人間関係、親密な関係の実感の欠如)です。

 たとえ人々が何千人、何百万人もの他者に囲まれていたとしても、都市生活はひどく孤立して孤独に感じられます。なぜでしょうか?1つには、あまりに多くの近代都市が公園や公共広場、人々が自然に集まる公共のスペースを犠牲にして、車を中心に設計されてきたためです。プリンス・ファンデーション・オン・ビルディング・コミュニティ (Prince’s Foundation on Building Community) の顧問ドミニク・リチャーズ (Dominic Richards) はこう説明します。「どこへ行くにも車に頼っていると、通りで人にばったり出くわし、ご近所さんとつながり、自分と異なる種類の人々と付き合う素晴らしい瞬間を失うことになります。」

 こうした「素晴らしい瞬間」が欠如している時、人々が疎外感や孤独を感じる時、個人や家族、コミュニティに大きな損失を与えることがあります。

 西部カナダのバンクーバーの市民が最も関心のあるコミュニティの課題が何であるかをよりよく理解するために、バンクーバー基金 (Vancouver Foundation) が2012年に実施した調査には、くぎ付けになりました。同基金が驚いたことに、最も顕著な課題は「孤 独感と孤立感の増大」でした。。。ますます個人主義的になる生き方がコミュニティへの配慮と参加を揺るがしているという感覚です。

 回答した4人に1人が、自分が望んでいたよりも孤独であるとしました。 痛ましいことに、調査によると、この孤独感と「不健康、信頼性の低さ、他のコミュニティメンバーへの態度の硬化」の間には相互関係が認められました。

 こうした新しい現実はバンクーバーに限ったものではなく、このような課題は、1人暮らしの人々が増えつつあり、多くの工業化社会が高齢化しているといった人口統計学的傾向によって悪化するだけでしょう。

 例えば、およそ770万人が1人暮らしをしている英国では、リレイト(Relate) という組織の最近の調査で、英国人の10人に1人が親しい友人が1人もいないことが分かりました。米国では、全米退職者協会 (AARP) の2010年の調査で、45歳以上のアメリカ人の35%が孤独であり、バンクーバーでもそうであったように、孤独感と不健康の間には相関関係がありました。

 もし都市が私たちの未来であるなら、英国の建築家、ラルフ・アースキン (Ralph Erskine) の言葉を思い出し、今こそ都市の未来について考える重要な時です。「建築の仕事は人間関係を改善することです。建築物は人間関係を悪化させるのではなく和らげるものでなければなりません。」

 私たちの目標は、ドミニク・リチャーズの言う、人と人とが交流する「素晴らしい瞬間」を可能にする都市の場所、空間、システムによって、親密な関係を構築することでなければなりません。つまり、例えば歩いて行ける距離にあるご近所さん、自転車専用道路、バスなど、自家用車に代わる利用しやすくて安全なものについて考えることです。コロンビアの首都ボゴタの前市長、エンリケ・ペニャロサ (Enrique Peñalosa) はかつてこう言いました。「発展した都市とは貧しい人が車で走り回るところではなく、お金持ちが公共交通機関を利用するところです。」そこで、エンリケは在任期間中 (1998–2001) に、ボゴタ初の高速輸送システム、トランスミレニオ (TransMilenio ) バスを構築しました。

 親密な関係を構築するということは、買い物をし、働き、学び、リラックスする機会を一体化した多目的環境を伴う、人々の生活の様々な局面に合わせて都市を設計することを意味します。そこでは、ご近所さんに歩いて行くことができ、異なる年齢、異なる収入の人々が混ざり合い、また、そこには歩道から公園、ファーマーズマーケットまで自然なつながりがあります。

 親密な関係の構築は住宅の数と並行して住宅の質を優先することも意味します。例えば、手頃な価格の住宅が希少なロンドンでは 、開発業者とコミュニティ組織が一緒に取り組み、賞を獲得したハイバリーガーデン (Highbury Gardens) 団地をロンドンのイズリントン区に創りました。1ベッドルームから3ベッドルームの住宅が119戸あり、そのうちの42%は手頃な価格の住宅です。ハイバリーガーデンは伝統的な建築と現代的な居住空間を兼ね備え、住民がリラックスしたり考え事をしたり、遊んだりできる美しい共有の庭もあります。これは、低所得の家庭をコンクリートの高層建築物へ追いやった過去の手頃な価格の住宅戦略とは大違いです。また、ハイバリーガーデンは公共住宅の住人が適度に混ざり合い、キーワーカー(地域に必要不可欠な公共サービスの従事者)の共同出資購買者も全額出資する一般の購買者もみんなが一緒に1つの住宅団地に住むことを促進します。これは、コミュニティをさらにばらばらにして孤立させる所得層別の通常のゲットー化(貧民街が形成されること)とは対照的です。

 親密な関係の構築のもう1つの重要な側面は、現地の人々の知識を尊重し、彼らが何に最も価値を置くかに耳を傾けることです。人々は、自分たちとコミュニティ(「自分の住む場所」を特別なところと感じさせてくれる景観、街の暮らし、そして環境)とをつなぐ場という感覚を望んでいます。

 伝統文化の経験から現代社会が学べることはたくさんあります。例えば、私の母国カナダでは、北米先住民族の建築は、お互いを、そして自然環境を尊重し、またそれらに配慮する彼らの価値観と調和していました。友人のショーン・アトレオ (Shawn A-in-chut Atleo) 族長は、彼らの中心となる行動規範であるヌーチャーヌルス (Nuu-chah-nulth) はトサウォーク (tsawalk) だと説明。シンプルに「私たちは1つ。皆つながっている」という意味。これは、全生命体の間にある相互依存関係に基づく世界観を表しています。アトレオ族長は、子どもの頃、村のおばあさんが歌うのを聞いたことを思い出します。大地にささげる特別な歌で、あらゆる人間の活動と自然現象の間のつながりを際立たせます。彼は言いました。その古いヌーチャーヌルス曰く「岩でさえ生きている。」

 ヌーチャーヌルスの住宅は全てこうした文化的な行動規範と精神性を尊重し、また、気候と地元の環境に合うようにデザインされました。建築する者は必要な材料だけを使用しました。現代の環境用語で言えば、彼らはわずかしかフットプリントを残しませんでした。けれども、こうした大地との調和や大地を任された者としての価値観は、環境の持続可能性以上のものでした。彼らは相互依存や人間と生きとし生けるもの全てが1つであることの感覚について語りました。

 最も重要な建造物の1つは、木造のロングハウスでした。複数の家族が一緒に住み、1つ屋根の下に数世代が住み、杉の丸太造りのこうした細長い住居が集まり村を形成していました。その構造は、互助と学び合いという文化規範を反映し、強化するものでした。先住民族の人々にとって、存在することと親密な関係を持つことは、同じコインの裏表でした。

 古くからの知識には現代の課題に対応する上で役割があると思います。都心にロングハウスを建設すべきだと言うのではありません。都市をデザインする時に、心の中にロングハウスの考え方を持つべきだということです。私たちが構築しているのは実はコミュニティであり、そこは個人や家族が成長でき、人々がお互いや自然環境と、、、そして聖なる命の循環全てとのつながりを感じる場所だという考えです。

 都市建築によって人々が互いに関わり合い、学び合い、支え合えるようにしようではありませんか。

 これが親密な関係を構築し、胸を張って「ふるさと」と呼べる都市を構築する方法です。


見えない苦痛人間は社会的な生き物です。生まれた瞬間から、他者への接触と他者からの関心を切望します。生き延びるためにそれらが必要なのです。そして人間のつながりがなかったり、失われたりすると、物理的にも感情的、精神的にも苦しみます。社会的孤立は、うつ病から心臓病、早死にといった苦しみと関連があります。 社会的孤立の苦しみはほとんどの場合目に見えないと相場が決まっていますが、それは、私たちの周りの至るところにあります。社会の本流から除外されることがあまりにも多い身体障害者や知的障害者。高齢者(英国では全高齢者のほぼ半数が友達の基本形態はテレビとペットだと言います)。経済的に恵まれない人々や不安定な世界の厳しい風によって解雇された人々。そして、コミュニティや世襲的階級制度のせいで全ての関心から締めだされ取り残された人々などです。 親密な関係の構造を修復して取り戻し、個人と社会全体にレジリエンス(立ち直る力)を構築するために私たちができることはたくさんあります。これは私たち全員の問題です。親密な関係の結び付きは両方向に伸びているものだからです。誰かに手を伸ばす時、自分もまた相手から触れられるのです。


キム・サミュエルは McGill University’s Institute for Studies in International Development の実務教授と Oxford Poverty and Human Development Initiative の政策顧問を務め、社会的孤立や多次元貧困に重点的に取り組んでいます。 またリサージェンス・トラストの理事会メンバーでもあります。

翻訳:佐藤 靖子

Building For Belonging • Kim Samuel

City planning must focus on ending social isolation

290: May/Jun 2015

リサージェンス & エコロジスト 日本版

リサージェンス誌は、スモール・イズ・ビューティフルを提唱したE.F.シューマッハらが始めた社会変革雑誌で、サティシュ・クマールさんが主幹。英国で創刊50年、世界20カ国に読者4万人。環境運動の第一線で活躍するリーダーたちの、よりよい未来への提言で、考える糧を読者にお届け。また、詩や絵などのアートに溢れているのも特徴。

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