健全な生態系をつくる家族計画

リプロダクティブ・ヘルス/ライツが環境保全の重要な役割を果たすとデビッド・ジョンソンとカリナ・ハーシュは主張。

翻訳:フリッツ郁美

アイリーンは、マダガスカル辺境の乾燥した地域のタンポロヴ村に住んでいた時、まだ学校に通っていましたが、息子がいました。 医療へのアクセスが全くないため、近代的な避妊方法を利用するには、最寄りの診療所まで 50km 歩かなければなりませんでした。 彼女のような女性は平均して7人の子どもがいて、妊娠や出産で 1/20 が死亡するリスクに直面していました。これは英国の何千倍にもあたります。この地域の人口は10年から15年ごとに2倍になり、漁業への圧力が高まり、夫婦は家族を食べさせていくのに十分な魚を捕獲するのに苦労していました。

 そこで女性たちは、この地域で活動する団体ブルーベンチャーズ(Blue Ventures)に支援を求めました。ブルーベンチャーズは、生活の糧をほぼ全て漁業に頼っている多くの辺境の地域で活動する海洋保全の社会的企業です。

 ブルーベンチャーズの医療部長ヴィク・モハン (Vik Mohan) は次のように述べています。「女性たちは、家族計画サービスへのより良いアクセスを望んでいました。生計と自然資源管理イニシアチブについては彼女たちのコミュニティとすでにパートナーシップを結んでいたので、彼女たちは私たちに助けを求めました。 「それで、(保全組織にとっては)大胆で果敢と当時感じた取り組みをしました。私たちは地域社会で自前の家族計画サービスを開始したのです。」

 それ以来、ブルーベンチャーズは、アイリーンのような地元の女性を地域の保健医療従事者として訓練し、マリー・ストップス・マダガスカル (Marie Stopes Madagascar) と提携しています。この組織は、長期的な避妊方法を提供し、より手の込んだケアをしています。 持続可能な生活と家族計画の取り組みを統合した環境保全と保健セクター間のパートナーシップは、女性を自然資源管理に参加させる機会を提供し、男性はリプロダクティブ・ヘルスを更に支持し、関与しています。

 ロンドンで開催された家族計画サミットの一環で、マーガレット・パイク・トラスト (Margaret Pyke Trust) が企画したイベントでヴィックは、アイリーンの話をしました。 「人間と環境の健康のためのWin-Win:家族計画ニーズを満たすことで環境保全プログラムをどのように強化するか (A Win-win for Human and Environmental Health: How Conservation Programmes Can Be Strengthened By Meeting Family Planning Needs)」というこのイベントは、重大なのに見過ごされがちな問題に焦点を当てています。

 世界の人口は増加しています(アフリカでは、2100年には今日の約10億人から約4倍の40億人に拡大すると予測されています。)。伴うのは地域で起こっている圧倒的大多数の成長で、特に開発で直面する複雑な問題。貧困と不平等、環境悪化 、健康障害、その他に関連する様々な社会問題。健康、教育、社会的ニーズが満たされなければならない人々の数がはるかに多い場合、これらの問題に対応する国の能力はさらに悪化するでしょう。

 農村部はほぼ例外なく、保護が最重要ですが、一般的に言うと人口増加率が高い地域でもあります。こうなる原因の一部は、家族計画の情報、権利、およびサービスに対する大きな障壁です。辺境の農村部に住む人々は、食糧、水、生計、医薬品、建材のために、地元の環境や自然資源に最も直接的に頼る傾向があります。 人口増加が生態系の健全性に影響を及ぼす場合、それはまた、農村地域の健康にも影響を及ぼします。 リプロダクティブ・ヘルスと権利は、少女や女性の健康とエンパワメントだけでなく、より広域的に重要です。

 この人口統計学的現実にもかかわらず、多くの自然保全主義者は、保全政策とプログラム設計を策定する際に、人口と家族計画を検討することには消極的ですが、変化していく兆候がみられます。

 人口、健康そして環境 (PHE: Population, Health and Environment) と呼ばれる開発セクターでは、このつながりを認識する手法が使用されています。このモデルは、持続可能な生活の世代と家族の計画作業とを組み合わせることによって、家族、彼らの健康と環境との複雑なつながりに取り組んでいます。 PHEは、特に影響を受けやすい農村地域、医療システムの範囲外に住む人々に適しています。

 人口基準局のクリステン・パターソン (Kristen Patterson) は、家族計画サミットの席上で、「PHEアプローチは、環境保全とリプロダクティブ・ヘルスに関する行動をまとめる折り紙つきのホリスティックな方法の1つです」と語りました。 ニジェールでの生活経験をシェアし、人口、健康と環境のつながりを目の当たりにし、それが彼女の世界観をどのように変えたのかを話しました。

 米国国際開発庁によって行われる10年間のPHE実施チェックは、PHE計画の作成の重要な成果に光を投げ掛けています。コミュニティは、投資され関与されていると、より速く感じることが多く、そういった短期結果がより長期の持続可能な影響につながる傾向にあります。人々の最も緊急なニーズに応じることによって、PHEプロジェクトは地域でより大きな信頼を培い、地域の主体性を構築するのを援助しています。

 事例の1つは、南アフリカの北西部の Groot Marico にあります。現地の A Re Itireleng によって命名されたこのプロジェクトは、 セツワナ語で「自分自身でやろう」という意味で、マーガレット・パイク・トラスト (Margaret Pyke Trust) とパスファインダー・インターナショナル (Pathfinder International) と 絶滅危惧野生生物トラスト (Endangered Wildlife Trust)によって運営されています。 気候変動と家族計画への不十分なアクセスの中で持続可能な生計の必要性を満たすために設計されたものです。

 プロジェクトの地域の中心には、地域的に重要な水路であるマリコ川の上流域があります。 健全なマリコ川は、地域固有で脆弱な種の生き残りや農業共同体の生計を維持するために重要です。 下流の多くの地域社会は、クルーガー国立公園のように水が流れる生態系と同様に、マリコ川に依存しています。

 その地域と住民は、干ばつと増加する人口による水の供給の要求にますます脅かされています。絶滅危惧野生生物トラスト (Endangered Wildlife Trust) は、地元の人々が家族計画サービスやPHEプロジェクトへと発展したプログラムへより多くのアクセスの必要性を認識した際に、集水やパーマカルチャーの原則を含んだ保護に重点を置いた農業の実践を可能にするために、持続可能な生計を訓練しています。環境生計行動や家族計画行動だけでは、相互に関連している課題に適切に対応することはできません。 コミュニティとエコシステムにはPHEが必要です。

 影響を受けやすい辺境の農村地帯に住んでいるアイリーンのような人々が数億人もいます。そこでは人間の健康と福祉が生態系の健全性と密接に関係しており、ヘルスケアへのアクセスが制限されていて、コミュニティが地域環境に食物と水の保障を頼っています。

 ブルーベンチャーズが活動する沿岸地域コミュニティや Groot Marico コミュニティなど、これらの地域の多くは気候変動の影響を特に受けやすいです。 人口増加の原因の一部は、家族計画の情報やサービスに対する障壁であり、これらの課題をすべて悪化させています。

 しかし、変化させることは可能です。 今日、アイリーンはブルーベンチャーズの支援を受けて、海藻やナマコを育てて順調に生活していて、彼女の村の家族計画の熱心な提唱者です。

 このようなプログラムは人々の生活をより良く変えてきました。 それでは、なぜ環境団体や資金提供者は、統合されたアプローチでこれらの開発懸念に対応していないのでしょうか? 現実には、ほとんどの開発援助が非効率に重複して資金提供されており、ほとんどの保全・保健機関はこれらの分野で同時に働くために必要な分野横断的な専門知識が不足しています。

 あまりにも長い間、保全と人間開発懸案事項は、別々で、お互いに競合していることさえあり、人々とその健康と福祉と環境との間の重要な関係に対処できていません。2015年に国連によって策定された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」とその17の「持続可能な開発目標」は、統合され、変革的であると歓迎されました。PHEプログラムは、統合を確実にして、目標を達成するための1つの方法です。 これは、今後数年ではますます一般的になることを私たちが望み、信頼しているアプローチです。 それは、人と環境の両方の健康にとって良いことづくめのニュースです。

ブルーベンチャーズは、持続可能な開発の重要な要素であるリプロダクティブ・ヘルスと権利を促進するグローバル・アライアンスである「人口とサステナビリティ・ネットワーク (Population & Sustainability Network)」のメンバーです。 このネットワークは、2004年に「国連持続可能な開発委員会」の下、「持続可能な開発のためのパートナーシップ (Partnership for Sustainable Development)」として発足しました。「絶滅危惧野生動物保護トラスト (Endangered Wildlife Trust)」や「FoE (Friends of the Earth)」などの環境に注力する他のメンバー、英国国際開発省などの開発機関、国際家族計画連盟のような保健機関は、保健・保全団体の集まりのさらなる例です。 ネットワークは、国際自然保護連合のメンバーでつ50年の家族計画の専門知識を持つという比類のない慈善団体「マーガレット・パイク・トラスト (Margaret Pyke Trust)」によって運営され調整されています。

デビッド・ジョンソン (David Johnson) は、「マーガレット・パイク・トラスト〜人口と持続可能なネットワーク (Margaret Pyke Trust, with the Population & Sustainability Network)」の最高経営責任者です。 カリナ・ハッシュ(Carina Hirsch) は同トラストの擁護とプロジェクト (Advocacy & Projects) のマネージャーであり、同トラストの「A Re Itireleng」プロジェクトへの取り組みを調整しています。 www.margaretpyke.org www.populationandsustainability.org

Family Planning Makes for a Healthy Ecosystem • David Johnson & Carina Hirsh

Reproductive health and rights play an important role in conservation

306: Jan/Feb 2018

リサージェンス & エコロジスト 日本版

リサージェンス誌は、スモール・イズ・ビューティフルを提唱したE.F.シューマッハらが始めた社会変革雑誌で、サティシュ・クマールさんが主幹。英国で創刊50年、世界20カ国に読者4万人。環境運動の第一線で活躍するリーダーたちの、よりよい未来への提言で、考える糧を読者にお届け。また、詩や絵などのアートに溢れているのも特徴。

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