時は私たちの手中に

ピンセットでつままれているのは、幅1ミリほどの小さなピンの形をした金色に輝くもの。正確にカットされ、繊細に磨かれたこの物体は、ストラザーズ・ウォッチメーカーズ(Struthers Watchmakers)の両輪の一人、レベッカ・ストラザー(Rebecca Struther)が作る時計の文字盤のアワーマーカー(時字)。「時計とは、私たちがコントロールできない宇宙の事象を、私たちの身に付けられるものとして取り込む方法です」と、彼女はニューヨーク・タイムズのインタビューで語っています。ハンドメイドの時計を買うのは、ほとんどの人にとって経済的に無理なことです。しかし、私たちを取り巻く世界の美と神秘をつなぐものとして手工芸が重要であることは、それがギリシャの壷であろうと、フェアアイル柄のセーターであろうと、自家製のパンであろうと変わりはないのです。本号の特集記事でジェレミー・シーブルックが書いているように、政治家が主張している「文化の変革」に対する批判が、現在の危機を打開する方法です。危機とは「多くの人々が、私たちが意味や目的を見出せると期待する新鮮なものを、明日のゴミと見なすようになっている」こと。そこで、本号では、個人主義や使い捨て文化に対抗し、コミュニティを構築する方法として、手工芸に注目しました。

 また、以降のページでは、つなぐ者に注目します。ナタリー・アラシ・カナレス(Nataly Allasi Canales)とキム・ウォーカー(Kim Walker)は、化学物質キニーネを抽出するフィーバーツリー(キナの木)の遺産と未来、そしてコロナウイルスの流行が、いかにこの木と先住民や非先住民を再び難題に巻き込んだのかについて探求しています。また、他の人々にとっては、つながることは走ることのような「想像力豊かな行為」でもあるのです。「知恵と幸福」のコーナーでは、『Spirit Run』の著者ノエ・アルバレス(Noé Álvarez)が、アメリカ大陸横断6,000マイルのウルトラマラソンについてジュリア・トラバース(Julia Travers)に語っています。エコロジストの特集では、カルロス・モレノ(Carlos Moreno)がキャサリン・アーリー(Catherine Early)に、すべての住民が徒歩や自転車で15分以内の距離で日常のニーズにアクセスできる「15分都市」のアイデアを通じて、「近接文化」を変革する必要性について語っています。「人々は孤独と匿名性、そしてストレスを抱えて生きています。このような状況は、都市での多忙な生活のために、人々が地域の社会的つながりを築く時間がないことが一因です」

 レベッカ・ストラザー(Rebecca Struther)のように、私たちは自分たちの手に時間を取り戻す必要があります。

 手工芸は、リサージェンスの56年間の出版活動の中で、重要なテーマでした。また、拡大するクラフティヴィスト(craftivist)運動をいち早く取り上げてきました。リサージェンストラストの会員になると、209号のアレクサンダー・マーディン(Alexander Murdin)による手工芸の新しいカウンターカルチャーに関する記事など、オンラインアーカイブ(www.resurgence.org/magazine-archive)のすべての記事にアクセスすることができます。新しいアーカイブ・セクションでは、過去数十年にわたる素晴らしいリサージェンス誌の抜粋を読むことができます。今号では、著名なクラフティヴィストであるサラ・コルベット(Sarah Corbett)が、世界を一針ずつ変えていこうと思うようになったきっかけを語っています。

マリアン・ブラウン

リサージェンス&エコロジスト誌の編集者

(翻訳:沓名 輝政)

Time in Our Hands • Marianne Brown

A celebration of craft

リサージェンス & エコロジスト 日本版

リサージェンス誌は、スモール・イズ・ビューティフルを提唱したE.F.シューマッハらが始めた社会変革雑誌で、サティシュ・クマールさんが主幹。英国で創刊50年、世界20カ国に読者4万人。環境運動の第一線で活躍するリーダーたちの、よりよい未来への提言で、考える糧を読者にお届け。また、詩や絵などのアートに溢れているのも特徴。

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