アートを実地に落とし込む

クリブ・アダムスが土壌を支えるアートプロジェクトを紹介。

Soil Culture というプロクラムでは、アートを使い、土の重要性を公衆がより深く理解するよう啓発します。この話題は、ジャイアントパンダやザトウクジラのようなカリスマ的な大型ほ乳類の保護ほどには、今まで公衆の注意をひくことがありませんでした。

 ただ単に、健全な土壌が、増加する世界人口に対する食糧生産に最重要というだけでなく、地球のエコシステムの一部として必要不可欠でもあります。気候変動の影響を低減する炭素吸収源の役割をするのです。水を濾過し、洪水から私たちを守ります。それから衣類用の繊維、建設用の材木、燃料をもたらします。

 今日、世界中の土壌は、ますます脅かされていて、理由は、まずい管理、短期結果主義です。最終的に、土の押し固め、汚染、浸食、塩害となり、しかも、肥沃さ、有機物、多様性を損ないます。2002〜2011年の間に英国南西部(私たちのプログラムを広く行う場所)に限り実施されたアンケートでは、土壌の38%が、顕著に劣化している事が明らかになりました。これは、表面流水の増加や、より広範な環境への深刻な影響に結びつくものです。

 ちょうど最初の景色が、紀元前1世紀の過度な開墾と森林開拓の時代に、ローマの郊外住宅の壁に描かれたように、新形態のアートが価値あるツールになり得ます。このツールは、エコ意識を高めるもので、人が用いたり乱用したりするような日々周りにある資源の重要性を、有り難く思うのに役立ちます。このツールは、科学的慣習的な主張がよく期待に背くようなやり方で、人々に関わることもあり得ます。

 「土壌」と「文化」という言葉のつながりは奇妙に思えるかもしれません。しかし「文化 (culture)」という言葉は元々「農業の (agri-cultural)」という意味で使われていて、16世紀になってからのことですが、次第に象徴的に使われるようになりました(よく手入れして土壌が改善された為)。そして、教育とアートで思考が向上しました。もしかしたら、今がアートや教育を役立てて、文化を土壌に立ち返らせる時なのかもしれません。

 グラハム・ハーヴェイ (Graham Harvey) は1997年の自著「The Killing of the Countryside」 で記しています。「昔からあるありのままの事実として、グローバルなコミュニケーションとインターネットの時代でさえ、文明化はその存在自体ににおいて、数cmの表土に頼り続けています」事実、Soil Culture プログラムは、10数年前のグラハムさんとの会話に端を発するものです。当時私は、英国の牧畜の歴史に関するアート展示を企画していました。その頃は、この前の口蹄疫の流行(特に殺虫剤と窒素肥料の環境への被害。1960年代に顕著な増加。)の直後でした。

 プログラムが本格的に始まったのは、2013年初頭、ファルマス大学と提携した頃で、提携により確保したのは、Arts and Humanities Research Council による一定期間の調査への支援です。そのことにより結実したのが、90を超えるアーティスト、作家、環境活動家が一堂に会するファルマスにおける先日7月のフォーラムです。

 Soil Culture を現在支援しているのは、Arts Council England、British Society of Soil Science と South West Soils です。そして、その内容は、南西部一帯とキュー地区の12戸のアーティスト用の住宅で、その内8つは公募で選ばれました。昨年末まで、最初の5つの住宅は、22の国々から456名の応募者をひきつけ、環境に関わるようになるアーティストの数が増えている事をはっきりと示しました。

 住宅地は、様々な組織が管理しています。中央コーンウォールのエデン・プロジェクトやペンリンのエクセター大学の Environment and Sustainability Institute からソマセットの新しい Hauser & Wirth アートセンターやグロウセスターシャの Daylesford Organic Farm まで。 各主催者が個別の要旨を定めていますが、全てが提示しているのは、新しい作品の試行錯誤や開発に取組む時間、他に類の無いほどの施設や専門家へのアクセスです。

 転入アーティストのデブラ・ソロモン (Debra Solomon) は、シューマッハーカレッジでの最近の「Restoring Our Soil」コースに尽力した人で、彼女の作品をダーティントンのギャラリーで、今年の5、6月に展示する予定。アムステルダムを拠点とするデブラさんは、Urbaniahoeve の創設者です。同団体は、都市区域内の食べられるエコな土地を開発し、都会の廃棄物から肥沃な土壌を作っています。展示会で、同時に公表されるのが、全住宅地の結果。南西部全域で展示され、ブリストルが European Green Capital として特別な存在となる時期と重なっています。

 2つ目、作品展示で、多くの実績ある国際的なアーティストによるものがあります。土壌に関わってきた作品で、時には何10年に渡るものも。この展示は、Falmouth Art Gallery で9月に始まる予定で、その後2016年に、プリマス大学に移って行きます。この展示作品には、メル・チン (Mel Chin) のもの(その作品には、汚染土壌から重金属を取出す特別な超高圧アキュムレータープラントを使うものも)、 パウロ・バーリル (Paulo Barrile) 、ハーマン・ドヴリ (herman de vries)、シカゴ拠点のアーティストのクライア・ペントコスト (Claire Pentecost) のものがあります。クライアさんの作品には、土の形を変えて金の延べ棒形にし、真の価値を表すものもあります。彼女曰く「私の土の延べ棒で提示しているのは、生きた土壌に基づく新たな価値観のしくみで、誰でも堆肥化して創れる通貨の形態です。」

 両展示会とも、全員参加型の幅広い活動を伴う予定です。ダーティントンの5月の Food Fair の間、庭園建築家 チャーロット・ラスボーン (Charlotte Rathbone) は、「Tasting the Place」というワークショップをします。着想はカリフォルニアのアーティスト Laura Parker からで、地域の土壌の「味」と地域のワインやチーズとを結びつけます。 アーティストのピーター・ワード(Peter Ward: 彼の絵はリサージェンス 288 号のヴァンダナ・シヴァの記事の挿絵に)は、土の顔料を用いたワークショップをする予定。彼は説明します。「作品に土の顔料を使うことで賛美できるのが、私の存在を産み出したもの、自然そのものです。」

 もちろん、読者のみなさんは既に頭にあるのかもしれませんが、国連は2015年を国際土壌年間 (IYS) と定めており、喜ばしい事に、Soil Culture は公式プログラムの1つとして認められています。よろしくない面は、参加国の政府が IYS への貢献を支援することを国連が期待しているのに反して、英国の環境食糧地域省 (Defra) は現状、私たちへの一切の資金提供を否定していること(資金は私たちの土壌の深刻な状態に対する公衆の意識を高めることに向けるものなのですが)。これは驚くべき事だと思います。なぜなら、早くも2005年、土壌関連の教育と意識に関する Defra の調査で分かったのが、現状の規定は見つけ難く、解釈が容易でないことだったからです。展示会が優れた学びの形態になることは自明だと知りながら、1984年以来、どの美術館もこの議題のものを展示してきませんでした。

 おそらく、たいして驚くほどでもないと思えるのは、Defraによる支援不足は、あの役割とつじつまがあうという事。その役割とは、現政権と農業労働組合が昨年果たしたもので、European Soil Framework Directive(私たちの土壌を空気や水と同様に保護することを目指した新政策)を台無しにしました。


クリヴ・アダムス (Clive Adams) は、彼が2006年に設立した Centre for Contemporary Art and the Natural World のディレクター。ダロ・モンタグ (Daro Montag) 、芸術環境の准教授が、2013年に共同ディレクターに。メインオフィスは、エクスター大学の Innovation Centre に。www.ccanw.co.uk

Soil Culture 居住者の展示会は、ダーティントンにて、2015年5月8日から6月19日まで、 デブラ・ソロモンが今年の初めにシューマッハーカレッジでの滞在中に手がけた作品を中心に据える予定。


Bringing the Arts Down To Earth • Clive Adams

An arts project that supports the soil

リサージェンス & エコロジスト 日本版

リサージェンス誌は、スモール・イズ・ビューティフルを提唱したE.F.シューマッハらが始めた社会変革雑誌で、サティシュ・クマールさんが主幹。英国で創刊50年、世界20カ国に読者4万人。環境運動の第一線で活躍するリーダーたちの、よりよい未来への提言で、考える糧を読者にお届け。また、詩や絵などのアートに溢れているのも特徴。

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