今こそ、つくりなおす時

都市が持続可能な暮らしの障害になってはいけないと、サティシュ・クマールは言う。

翻訳:浅野 綾子

 ある日のこと、私はロンドンの中心、オックスフォード・ストリートの近くにある友人の事務所を訪れました。友人は採れたてのミントを浮かべた、美味しいハチミツ入りの紅茶を出してくれました。ミントの鮮やかな緑の葉を見て私は言いました。「この新鮮なミントはどこで?お茶をいただく時は、普通はドライミント入りのお茶なんですよ」

 「このミントは自分の菜園で摘んだのです。菜園をご覧になりますか?」と友人は言いました。

 「菜園はどこにあるんです?」 私は不思議に思いました。

 「ついて来てください」。友人は立ち上がって、階段を上に、屋上へと案内してくれました。そこにあったのです。大都会の中心にあるオフィスビルの屋上に、素晴らしい菜園がありました。ローズマリーにタイム、ミント、マリーゴールド、その他たくさんの花やハーブ。ハーブや花々の上をチョウが飛び回り、ミツバチが巣の回りをぶんぶん飛んでいました。

 事務所の屋上で友人がミントやマリーゴールドを育てることができるなら、ロンドンに住む他の人たちもできるだろうと思いました。花やハーブだけでなく、果樹や野菜も育てられるでしょう。ロンドンの街全体の屋上空間を足し合わせれば、何千エーカーもの空き地になります。この場所を、食べものを育てる場所として使い、ロンドンを菜園の街に、緑ある、生活に心地よい場所に変えることもできるのではないでしょうか。

 屋上に加えて、まっさらな壁がたくさんあります。その壁を縦に伸びる菜園に仕立てて、梨やプラム、グースベリーやラズベリーを育ててみてはどうでしょう。こうした果樹が、この街の壁を美しいだけでなく、まさに実り豊かで役立つものにするのを見ない手はありません。

 ロンドンだけでなく、世界中のすべての都市を提携させて、都会の風景を、かけがえのない惑星であるこの地球の再生の地に変えましょう。ロンドンからリスボン、ベルリンから北京、モスクワからモントリオール、ナイロビからニューデリー、すべての都市が気候災害と戦う生態学的パラダイムに参加できるようにするのです。

 屋根に太陽光パネルをとりつければ、都会で太陽のエネルギーを集めることができます。水を溜めるタンクをつければ、雨水を集めることができます。頭上の大空から明るくきれいな太陽の光を集めることができるのに、地中深くの坑井から掘り上げた暗黒色の汚れた石油を必要とする人はいないでしょう。化石燃料の時代は終わりを迎えているのですから、再生可能エネルギーの力を見直して、太陽と風と水がくれる、溢れるほどの恵みを生かして暮らそうではありませんか。

 すべての市民が特別なことをしないでもありのままの自然に触れられるように、町や都市を設計し直しましょう。ジギタリスがあるから流行の服を着て行かれない、そんなことはありません。劇場にアザミがあっても、まったくおかしくありません。ツバキがあってもお化粧は映えるでしょう。川を眺めながらのレストラン、むしろ魅力的ではないでしょうか。ロンドンの大通りにぜひアジサイを植えましょう。ロンドンにはありがたいことに、ハムステッド・ヒースやリッチモンド公園、それ以外にもたくさんの公園・庭園があります。実際、ロンドンの48%は緑地に恵まれています。緑地があることをたたえましょう。緑地を大切にし、守り、維持し、さらにそれを広げていきましょう。緑の庭は、ロンドンの人たち、都市という都市に住む人々にとって、最高の生命保険であり、健康保険なのです。

 台所がなければ、家は「家」にはならないように、家に庭がなければ「家」にはなりません。そう、屋上庭園の出番です。オフィスビル、店、病院、学校、その他規模の大きな公共建築物には屋上庭園をつくるべきです。すべての高齢者施設には、花やハーブや野菜を育てる裏庭の菜園と同じように、日光浴やお日様の下で昼ごはんのピクニックができるように、屋上庭園を設置すべきです。良い暮らしは庭のある暮らしです。庭は、お金持ちのためだけのぜいたく品ではありません。庭を使えることは、すべての人が生まれながらに持つ権利であるべきです。車より、コンピューターより、カメラより、庭を持つことが先です。新鮮な食べ物ときれいな空気は、人間にとって欠くことのできない権利です。

 新鮮な食べ物の一部を自分たちの住む都市でまかなえるようにして、残りは各都市の半径80キロメートル内から取り寄せるようにすれば、田舎と都会と郊外の間に調和のとれた関係が生まれます。食べ物を、化石燃料の使用が必要な遠く隔てた世界の端から輸送することは、気候崩壊の原因になります。大規模な工場式農場やアグリビジネスによって、温室効果ガスの30~40%が生み出されます。農業を化石燃料の縛りから解き放ちましょう。都市の住民が、周辺地域の家族農業や小規模生産者の仕事を敬えるようにしましょう。地域の生産者が、週末のファーマーズマーケットやあらゆる都市でのパニエマーケット[屋内市場]で、正当な価格で生産物を販売できるようにしましょう。

 都市に住むすべての子どもたちが、大地や農場や庭や動物と、定期的に親密な関係を持てるようにしましょう。そうすれば都会の子供たちが「自然体験不足障害」に悩まされることはありません。都市に住むすべての子供たちにこうした機会を提供しようではありませんか。そうすれば、子供たちは自然に対する深い知識や、自然の中での体験、自然への愛を持って育つことができます。

 都市の景観を設計し直して、人間サイズの生活環境につくりかえましょう。学校や店、診療所、図書館、職場は、すべての市民にとって徒歩圏内にあるべきです。

 通勤に何時間も無駄にするという考えは、過去の悪夢になるべきです。もっと歩いて、車の運転を減らすことは、健康上の最重要課題であると同時に、生態学的にも緊急を要する課題です。歩くことは気候崩壊のひとつの解決策であると共に、人間の精神、人間の心、人間の魂を癒します。都会を混雑と通勤から解き放ちましょう。ロンドンはかつて自給自足の村や町がハチの巣状に集まる場所でした。ハムステッド・ヴィレッジやカムデンタウン、ケンティッシュ・タウン、その他多くの町や村がありました。ロンドンのこうした地域のそれぞれに、独自の文化や個性がありました。

 近所づきあいを取り戻しましょう。隣の人がわかれば、隣の人を好きになることができます。古い街の中の町や村は、お互いが結びついた素晴らしい場所でした。こうした町や村は、真の友愛の情が人々の間で通いあうコミュニティでした。けれども現代の都市にある新しい住宅団地からは、コミュニティや隣人という感覚が失われています。このような魂の抜けた都市は人間が設計し、人間がつくったもの。そうであれば人間が設計し直し、つくり直すこともまた可能です。今こそ、それをする時です。化石燃料で動く都市は、気候問題の一部分をなしています。都市が風や水や太陽で動くなら、都市は気候問題の解決策のひとつになるでしょう。

サティシュ・クマールの新書『Pilgrimage for Peace: The Long Walk from India to Washington(仮訳:「平和への巡礼~インドからワシントンへの長い歩み」)』の購入はこちらwww.resurgence.org/shopで。

Time to Rebuild • Satish Kumar

Cities should not be a block to sustainable living

定期購読はこちら。

リサージェンス & エコロジスト 日本版

リサージェンス誌は、スモール・イズ・ビューティフルを提唱したE.F.シューマッハらが始めた社会変革雑誌で、サティシュ・クマールさんが主幹。英国で創刊50年、世界20カ国に読者4万人。環境運動の第一線で活躍するリーダーたちの、よりよい未来への提言で、考える糧を読者にお届け。また、詩や絵などのアートに溢れているのも特徴。

0コメント

  • 1000 / 1000