すべての人に木の恩恵を
ジュリア・トラバースがアメリカから木陰を増やす運動についてレポート~すべての人に木陰を
翻訳:浅野 綾子
アメリカでは黒人や、その他の有色人種、低所得者の人たちが住む地域では木が少ないということがよくあります。この状況に対応しようと、非営利団体のアメリカン・フォレスト(American Forests)ではこうした不均衡を追跡するシステムを作成し、すでにヒューストン、デトロイト、シアトル、その他の都市部で算出結果を出しています。この団体は、国内外を通じて広がる環境正義の運動に同調して、地域コミュニティや非営利団体、政府と組み、データを利用して植樹を推進しています。
「ツリー・エクイティ・スコア(Tree Equity Score:「木の公平」評価)」には、人口密度、収入・雇用、人種・民族、年齢、木陰の衛星画像、さらには表面温度といった要素が取り入れられています。この方法は、U.S.クライメット・アライアンス(United States Climate Alliance)の教育プログラムの一部として、ロードアイランド州で開発されました。
「人種差別やその他の形態をとる差別は、どこに木が配置されるかという点において、影響を持ち続けています。人種や経済状況のちがいと相まって、コミュニティの健康や福祉に影響を与えています」とグラウンドワーク・ロードアイランド(Groundwork Rhode Island)の事務局長、アメリア・ローズは言います。グラウンドワーク・ロードアイランド(RI)はアメリカン・フォレストと提携しています。
アメリカン・フォレストはツリー・エクイティ(tree equity)を、すべての人が健康、気候の恩恵、経済的利益を享受できる十分な木が生えていることと定義しています。木は大気を冷やして清浄化し、心臓や呼吸器疾患のリスクを低減します。木の特質はさまざまありますが、木は水の汚染を除去し、洪水を減らし、光熱費を削減し、二酸化炭素を隔離し、精神的健康にもメリットをもたらします。木の少ない地域の人々は、一般的に暑さや汚染、ストレスにさらされやすくなります。
アメリカで木陰がある場所に不平等があるのは、多くの場合、住宅供給差別の結果です。1930年代の「赤線引き」という人種差別的な不動産慣行を通して、連邦職員は黒人の住民が「リスクのある」投資対象であるとレッテルを貼り、住宅を購入する可能性のある人たちが住宅ローンを組むのを妨害しました。黒人の人たちが住宅ローンを組めないようにしたことで、結果として黒人やその他有色人種の居住地には、緑が少なく、多くの舗装道路ができました。2020年の研究では、以前に「赤線引き」の慣行があった地域では、そうでない地域と比較して夏が暑く、現在7℃までのちがいがあると分かっています。以前に「赤線引き」がされた地域は、低所得者層の居住地、さらには黒人、あるいはラテンアメリカ系の住民が住む地域であることが多いです。こうした地域に住む人々は、健康状態にも違いがあります。
私はこの「赤線引き」研究の共同執筆者であるジェレミー・ホフマン(Jeremy Hoffman)に、アメリカン・フォレストのツリー・エクイティ・スコアについての考えを聞きました。ジェレミーは、このデータ主導型のアプローチについて「まさに理にかなっている」と言いました。このアプローチをとることで、「都市で(限られた資源)を効率的に分配して、ヒートアイランドを減らしたり、精神衛生を向上させたり、(既存の住民に)経済的機会を提供したりすることについての影響を最大限にできるかもしれない」
今年に入ってアメリカン・フォレストは、ロードアイランド州内でツリー・エクイティの評価方式を使用するために資金を投入しました。ロードアイランド州は、州内のヘルス・エクイティ・ゾーン(Health Equity Zone)に木陰を増やすことを目的として10万ドルを助成金として共同出資しました。ポータケット市とセントラルフォールズ市のヘルス・エクイティ・ゾーンは、両市の住民の健康格差に取り組むために2015年に開始された試みです。ポータケットとセントラルフォールズは以前「赤線引き」が行われていた地域で、地面は広く舗装され、木陰はあまりありません。コミュニティのグループがこの新しい木の助成金を利用して、ツリー・エクイティ・スコアの低い地域にある公・私有地での植樹を指揮することになっています。グラウンドワークRIでは、樹木の管理とコミュニティ活動について地域住民の養成を行う予定です。
グラウンドワークRIのプログラムコーディネーターであるレアンドロ・カストロ(Leandro Castro)は、ツリー・エクイティ・スコアは「地域のグループや官公庁が、樹冠の有無に影響を与える構造、樹冠の有無によって影響される構造について気づき、深い対話ができるようにするモデルです」と言います。レアンドロは地域のさまざまな非営利組織が地域でのアウトリーチ活動を実施していると言いました。「友人や近所の人たちに話しかけ、『組織的(organically)』という言葉を広める手助けをしています。このことは、気候変動に脆弱なコミュニティの声と選択が(木が)どこに植えられるかについて影響を与えられるよう確実にする、私たちの組織的な取り組みを表しています」
アメリカン・フォレストでは、公平性に焦点をあてた植樹を推し進める多数の都市森林構想を、アメリカ中のそれにふさわしい場所で実施しています。この非営利団体のウェブサイトによれば「失業中、または不完全雇用の有色人種の人々が住むコミュニティのような、ないがしろにされている地域」に向けて、木に関係する職業をつくり出せるよう努力していると書かれています。
「アメリカン・フォレストの労働力開発プログラムを通して、都会の林業における雇用機会は、もっともそれを必要とするコミュニティに利益をもたらすことを確信しています」と、アメリカン・フォレストのアーバン・フォレストリー(都会の林業)責任者イアン・リーヒ(Ian Leahy)は説明します。「(アメリカン・フォレストでは)それぞれの人を直接正規の職につないで、就労と就労維持の障害を減らすために、交通手当や託児など、一人ひとりの状況に応じた支援を提供しています」
アメリカン・フォレストでは、アメリカの100の都市にあるすべての低所得者地域が、2030年までにツリー・エクイティ・スコアの合格点に達することを想定しています。今年の5月、フェニックス市が、アメリカではじめて2030年までにツリー・エクイティを達成すると公約しました。アメリカ全土での大規模な評価の実施は、6月に予定されました。
「アメリカの樹冠の傘には穴があります」とカストロは言いました。「私たちは(その穴を)継ぎはぎして、骨組みを作り直すことまでしなければなりません。そうすれば生命を吹き込むという木の性質から、すべての人が恩恵を受けられるのです」
ジュリア・トラバース(Julia Travers)はアメリカのバージニア州を拠点に活動するジャーナリスト、独創的な作家。環境や社会正義に関する執筆記事が多い。トラバースの記事は『NPR』、『Discover Magazine』、『Art News』、その他のメディアで掲載されている。 jtravers.journoportfolio.com
Tree Equity • Julia Travers
Report from the US on a campaign to create more tree cover
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