ゼロへのレース(Race to Zero)

今年初め「Hello, I'm paper bottle(こんにちは。私は紙ボトル)」というラベルが貼られた化粧品の容器を手で持った画像がソーシャルメディアで話題になりましたが、おそらく企業が意図した理由からではないでしょう。2枚目の写真では「paper(紙)」の部分が切り開かれ、中身のペットボトルが見えていました[画像はこちら]。皮肉なことに、この「緑茶美容液」のメーカーは、その後、グリーンウォッシュの疑いで訴えられました。さらに「アクションエイド(Action Aid International)」の気候政策コーディネーターであるテレサ・アンダーソン(Teresa Anderson)は、次のようにツイートしています。「Hello! I'm a #NetZero climate target!(こんにちは。私は #NetZero の気候目標です!)」 彼女の投稿には50,000以上の「いいね!」がつきました。

 今年の国連気候変動枠組条約締約国会議(COP26)に向けてカウントダウンが始まりました。この会議では、各国がパリ協定の約束をどのように実行し、世界を壊滅的な過熱から遠ざけるかを決定しますが、多くの政府や企業が「ネット(正味)・ゼロ」の気候目標を約束しています。しかし「ネット(正味)」の問題点は「紙」ボトルのパッケージのように、ビジネスの従来通りの言い訳になってしまうことです。それだけでなくアクションエイドの言葉を借りれば「気候危機の原因をほとんど作っていない南半球の国々の土地や植林地に、炭素隔離の負担を負わせることで、ほとんどの『ネット・ゼロ』気候目標は、事実上、炭素植民地主義を推進している」ということになります。

 地球温暖化を1.5℃以下に抑えるために、国際エネルギー機関(IEA)は、新規の石油・ガスプロジェクトを中止するよう求めています。しかし、COP26のわずか数か月前に、開催国である英国政府は、シェットランド島沖の巨大油田を承認しようとしていました。業界団体「Oil and Gas UK」の最高経営責任者は、このプロジェクトは「誰もが望むネットゼロの未来」の一部であると述べましたが、国際環境NGO「Friends of the Earth」のスコットランドは、このプロジェクトが「かつてないほどの気候破壊」をもたらすと警告しました。他の場所では「ゼロへのレース(Race to Zero)」についてより希望的な意見もあります。法を用いる慈善環境団体「Client Earth」の弁護士は、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)が発行したツールキット「Get Net Zero Right」の中で「全体に波及する気候リスクに戦略的に対応するためには、ビジネスや投資家が『パリ協定』や『ネット・ゼロ』戦略を設定し、追求することが必要であり、現在何百社もの企業がそうしている」と述べています。

 今号の「リサージェンス&エコロジスト」では、COP26の開催地であるグラスゴーに向けて出発し、テーマ別に「ネット・ゼロ」の意味を探ります。今号の記事では、ティム・サンダースが、英国首相の父である元政治家のスタンリー・ジョンソン氏に、サミットに向けて英国がすべきことを聞いたり、作家やアーティストが気候危機の緊急性を伝えるクリエイティブな方法を紹介したりしています。政治家たちが将来の方向性を決める中、若者のリーダーであるマイヤ=ローズ・クレイグ(Mya-Rose Craig)とジェーン・グドール博士(DBE:大英帝国爵位)という2世代の自然保護活動家がオンラインで出会い、地球上の生命を守ることについて意見を交換しました。何をどのようにすべきか、私たちには個々に異なる見解がありますが、結局私たちは、この渦中に一緒にいるのです。UNFCCCのウェブサイトには、「多くのレースとは異なり『ゼロエミッション』レースには勝者がいません。このレースでは、私たち全員が勝つか、全員が負けるかのどちらかなのです」

マリアン・ブラウン は、リサージェンス&エコロジスト誌の編集者です。(翻訳:沓名 輝政)

The Race to Zero • Marianne Brown

On the road to Net Zero

リサージェンス & エコロジスト 日本版

リサージェンス誌は、スモール・イズ・ビューティフルを提唱したE.F.シューマッハらが始めた社会変革雑誌で、サティシュ・クマールさんが主幹。英国で創刊50年、世界20カ国に読者4万人。環境運動の第一線で活躍するリーダーたちの、よりよい未来への提言で、考える糧を読者にお届け。また、詩や絵などのアートに溢れているのも特徴。

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