最も思いやりあるものが生き残る

より多くの専門家が人のもつ思いやりを支持しているとジュリアン・アベルが執筆。

翻訳:斉藤 孝子

2020 年にルトガー・ブレグマンが『Humankind[仮訳:人類]』を出版したのと同時期、ブライアン・ヘアとヴァネッサ・ウッズは『Survival of the Friendliest[仮訳:最も友和的なものが生き残る]』を出版しました。進化人類学者として彼らの研究は、人類の友和と協力がいかに進化を推し進め、他の多くの類人猿より優勢であったかを示しています。同じくその年に、リンゼイ・クラークと私は、『The Compassion Project[仮訳:思いやりプロジェクト]』を発刊しました。同著は、フロム・メディカル・プラクティス(Frome Medical Practice)の主任 GP(総合診療医)のヘレン・キングストン(Helen Kingston)とヘルス・コネクション・メンディップ(Health Connection Mendip)のコミュニティ開発サービスを設けて運営してきたジェニー・ハートノル(Jenny Hartnoll)のビジョンを通して、フロムの町の変革を描いたものです(307 号をご参照)。

 同著では、教育機関、ビジネス、環境において、思いやりを最大限に活用することの大きな影響とその適用可能性、政治を思いやるあるものへと変革させる必要性を論じています。環境破壊の中心にあるのは、思いやりの欠如です。自分たちや子供たちの未来を憂う政治的意志が存在しない限り、化石燃料の排出は続き、生物多様性は失われ、消費主義の増大は更に激しくなるでしょう。

 英国の思いやりのコミュニティ(Compassionate Communities UK)の Web サイトにある、「思いやる者生存説(Survival of the Kindest)」ポッドキャストは、論拠、感情、インスピレーションを提供しようと、人生の多くの場面での思いやりの有る話、無い話を求めています。ゲストたちが、イラク戦争禍で見られた思いやりの有無の驚くような対比を語ってきました。同様に衝撃的な対比は、カナダのファースト・ネーション[カナダ先住民の 60% を占める民族]のコミュニティと共にした仕事での経験談の中でも聞かれます。

 メアリー・ルー・ケリー(Mary Lou Kelley)は、ファースト・ネーションの研究者ホリー・プリンス(Holly Prince)と共にそのコミュニティ間で緩和ケアプログラムを始めたのですが、欧州中心の文化がいかに自立に焦点を当ててているかを描いています。ファースト・ネーションのコミュニティは、相互依存、人と人、動物や環境と同族の意識が強いのです。ああ、こんな優しさをどれ程求めていることか!そして、ジョナサン・ポリットがその新著『Hope in Hell[仮訳:地獄に在っての希望]』について語ります。私たちには希望を求める理由があり、それは楽観的になる以上のものと彼は説明します。希望は行動の起因なのです。

 この大いなる希望を表明する兆候は世界中で目にできます。エクスティンクション・レベリオン(絶滅への反逆)とグレタ・トゥーンベリによって始められた学校ストライキは、非暴力の市民的不服従という素晴らしい方法に従うもので、それは変化を引き起こすのに非常に効果的だと証明されてきました。思いやりあるコミュニティ計画は、北アメリカと南アメリカ、オーストラレーシア、ヨーロッパ、南アジアと東アジアを含む多くの大陸で発展しています。そしてついに、これらの取組みの善意は、将来を案じる経済観により支えられているのです。

ー 中略 ー

ジュリアン・アベル(Julian Abel)は緩和ケアコンサルタント、英国の思いやりのコミュニティのディレクター。『The Compassion Project: A Case for Hope and Humankindness from the Town That Beat Loneliness[仮訳、思いやりプロジェクト:希望と思いやりの事例 — 孤独に打ち勝った町から]』が Octopus Books より 2020 年に出版されている。www.compassionate-communitiesuk.co.uk/podcast


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リサージェンス誌は、スモール・イズ・ビューティフルを提唱したE.F.シューマッハらが始めた社会変革雑誌で、サティシュ・クマールさんが主幹。英国で創刊50年、世界20カ国に読者4万人。環境運動の第一線で活躍するリーダーたちの、よりよい未来への提言で、考える糧を読者にお届け。また、詩や絵などのアートに溢れているのも特徴。

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