道理をわきまえずに飛び続けるのか

航空業界の自由な翼を制限して公正な交通システムを構築すると、カルム・ハーヴェイ・スコールズが執筆しています。

翻訳:浅野 綾子

飛行機による移動は、有害な大気汚染を引き起こすのに加えて、最大の温室効果ガス集約型の移動手段です。新しい空港やターミナル、滑走路の建設にはほぼ常に土地の収奪や生態系の根絶が必要になります。とりわけ重要なのは、飛行機の飛行を環境に害のないようにすることは不可能だということです。飛行機をとばすことによる悪影響を減らすことは不可能です。気候科学が要求する差し迫った時間の中で、生存可能な気候および生態系の回復と、おびただしい数の航空移動を両立できるようにすることはできないのです。ですから、飛行機による移動を制限して、公正で持続可能な交通システムを構築しなければなりません。

 飛行機を飛ばすことは、他のどの直接輸送の形態よりも、乗客マイル毎の二酸化炭素排出量が多くなります。この二酸化炭素排出量の増加の影響は、以下の事実によってさらに悪化します。その事実とは、二酸化炭素以外の温室効果ガスの影響で、高所での化石燃料の燃焼には、はるかに強力な加熱効果があるということです。これはすなわち、飛行機 1 機がケロシンを燃焼させれば、地表で燃焼する場合と比して、ケロシン 1 リットル毎に少なくとも 2 倍の加熱効果が生じるということです。5 倍にさえなるかもしれません。

 時に、飛行機による移動は地球規模の二酸化炭素排出のわずか 1 桁台のパーセントを占めるにすぎず、優先的対応事項にはあたらないと誤って主張されることがあります。しかし、飛行機による移動を地球規模で見ることは、だれが飛行機による移動から利益を得て、だれが温室効果ガスを発生させているのかという、気の遠くなるような不公平さから注意をそらします。たとえばイギリスでは、飛行機による移動による排出は、家庭における平均的二酸化炭素排出量の 12 パーセント(控えめな見積もりによれば 2050 年までに 30 パーセントに到達すると予想される)です。しかしもっと重要なことは、イギリスにおけるすべてのフライトの 70 パーセントは、その人口の少数派(15 パーセント)である非常に頻繁に飛行機を利用する人たちによるものであるという事実が、この平均値だけでは伝えられないということです。データは限られていますが、このパターンは他の国々でも同じように見られます。事実はさらに酷いもので、少数の著名人はジェット族の習慣だからという理由だけで飛行機を利用し、地球平均の 1 万倍もの二酸化炭素がその利用により排出されているのです。国や地方の現実に注目しなければなりません。富裕な国々の飛行機利用がもっとも多く、その国々の中でも富裕層の飛行機利用が多いです。この最近の研究に加え、半数近くのフライトについては、その利用者からも重要だと考えられてさえいないことが明らかになっています。

 空港への移動手段として使用されるその他の交通形態(車、バス、電車)によってさらに大気汚染が生じ、それによって旅行者同様、空港付近の住民の健康被害も発生します。

間違った解決策

飛行機による移動が環境へもたらす影響を削減する施策のすべては、各国が国際上の責任を負うことを拒絶したために、国連の専門機関である国際民間交通機関 (ICAO) に責任があります。これは、ICAO よりも重要視されるパリ協定や京都議定書から航空や船舶による二酸化炭素排出が除かれているためです。残念ながら ICAO は、ケロシン燃焼量の減少策を提案するために緊急に必要とされるようなことを、何も実行できないでいます。各国政府が ICAO を解決策の討論をとりもつ立場として見ているにもかかわらず、地球規模の解決策の試みはすべての人々を失望させつづけているのです。

 カーボン・オフセットを使用する現在の「緩和」策は、航空産業とこの産業にとりこまれた監視機関(特にICAO)により推進される間違った解決策です。二酸化炭素の排出削減の代わりに、削減するといわれている植林プロジェクトや水力発電ダムのような炭素クレジットを他から購入することで相殺できると航空会社と空港は主張します。空港はまた、多くの場合、生物多様性の消失を「オフセット(相殺)」することで生態系に対する自分たちの破壊行為を正当化しようとします。カーボン・オフセットによって現実に二酸化炭素の排出が減ることはありません。ある場所で破壊された生態系を、どこか別の場所で時間をかけずにつくりだすこともできません。カーボン・オフセットのプロジェクトの多くは、地域紛争や土地の収奪とかかわっています。特に森林再生や、レッドプラス [途上国が自国の森林を保全するため取り組んでいる活動に対し、経済的な利益を国際社会が提供するという施策] のような土地ベースのスキームの事例とのかかわりです。カーボン・オフセットは不公平であり、削減するという緊急の必要性から注意をそらし、良い転換ではなく、破壊です。排出を減らせない、実際の行動を遅らせるという点で、カーボン・オフセットはおそらく何もしないよりも悪影響です。 航空機における使用にむけてバイオ燃料を合成する植物の利用が、もう一つの主要な解決策として航空会社により喧伝されています。ケロシンをバイオ燃料で代替することは誤りであり、きわめて破壊的な事態が予想されます。バイオ燃料を、航空産業が必要とする大規模なスケールで供給することはできません。このバイオ燃料を供給できる可能性のある植物の 1 つにはトウモロコシがありますが、これは食べ物を育てる肥沃で大切な土地を、人々のためではなく航空機のために使用するということです。航空機におけるバイオ燃料の代替的使用は、森林破壊や泥炭排水の大幅な増加を(直接的および間接的に)引き起こし、それにより膨大な二酸化炭素の排出が生じます。また、航空機におけるバイオ燃料の代替的使用は、強制立ち退きや食の主権の喪失を含む、土地の収奪や人権侵害につながることはほぼ間違いありません。さらには結局のところ、こうしたバイオ燃料を高所で燃焼させれば、ケロシンの燃焼時と同様に、二酸化炭素以外の温室効果ガスの影響も依然としてうけることになるでしょう。

地元の抵抗

現在、世界中で約 540 以上の空港が建設中、または拡張が計画されている状況にあります。それぞれが紛争の原因となっていますが、多くの空港は地元の反対にあっています。新しい空港のインフラストラクチャーの建設には、生態系の破壊や農地のアスファルト舗装、ブルドーザーでの住宅破壊がつきものです。実際問題として、この建設は土地の収奪や立地建物からの追い立て、大規模な生態系破壊につながります。それに応じて、こうした場所の多くでは地元のコミュニティが一致団結して空港プロジェクトに反対し、プロジェクトによって引き起こされる社会または生態系の被害を食い止めるべく戦っています。

 ステイ・グラウンディド (Stay Grounded) は、知識を共有し連帯を示すためにこうした地域闘争とつながる国際的なネットワークです。現在のところ、世界中で 150 以上のグループがこのネットワークに参加しています。ステイ・グラウンディドが行っている活動の一部には、環境正義アトラス (Environmental Justice Atlas) [環境問題をめぐる社会紛争を分類し記録するプロジェクトhttps://ejatlas.org/] を通して、こうした紛争すべての情報を精査して共有することがあります。プロジェクトの 1 つとして、今まで不可能だった方法で、地域イベントを世界中に広く発信しています。複数で起こっている地域の問題が拡大していく強力な運動になるように、空港運動が同じような問題を抱えた他の地域を見つけて繋がりをつくれるように援助もしています。 たとえばインドを例にとると、空港拡張プロジェクトが多数あります。地域コミュニティの生活が営まれ、コミュニティが生活の糧を得る村や農地を取得することで、空港拡張プロジェクトは地域コミュニティに甚大な影響をおよぼします。アーンドゥ・プラデーシュ州にある新しいボーガプラム・エアロトロポリス(エアポートシティの意)の計画は、2015 年、政府によって急速に進みました。その計画では、6070 ヘクタールの土地を取得することが必要でした。16 の地元のコミュニティが、この動きに反対するため1年以上におよぶ一連の一斉行動を組織化。地元の農民や漁民や日払い労働者や運動家、3000 人が行動を共にして国道を封鎖したり、行政機関の外に集まったり、一部には反対の意志を示すためにハンガーストライキを行う人たちもいました。一斉行動は一部成功し、政府は取得予定の土地を次第に縮小して公表しており、809 ヘクタールにまで下げています。 西ベンガル州のバルッダマーン地区のアンダルでは、小作人が耕作する土地に新たなエアロトロポリスを建設する計画があります。この空港建設計画は 931 ヘクタール以上の土地取得の発表にはじまり、異議のある者は名乗り出るようにとの通達が出されました。仮に土地の強制取得という不公平な手続きを気にかけることがないにしても、現実には村々の役場の中でこの通達は回覧さえされていなかったという苦情が上がっています。つまり、多くの人たちがこの通達を聞いておらず、そのために正式な手続きを通して苦情の申し立てをしなかったのです。苦情の申し立てをした小作人のうち 250 人については、土地の喪失に対する補償の支払いの遅延を経験しています。小作人たちは最近さらなる行動を起こし、ベンガル・エアロトロポリス・プロジェクツ株式会社 (Bengal Aerotropolis Projects Limited) の従業員が現場に立ち入るのを阻止するために、現場を封鎖しています。 隣国のバングラデシュでは、2011 年に、アリアル・ビール (Arial Beel) の湿地帯にバンガバンドゥ空港が建設される計画が持ち上がり、野生動物を根絶やしにするのに加え、約 10,118 ヘクタールの土地を地ならしして農民や漁民を追い払うことが計画に含まれていました。3 万人もの人々によるデモと、警察との暴力的な衝突も起こった道路封鎖の後、政府はそのような反対にあってはその地に空港は一切建設できないと発表しました。

 世界中で起こっている新空港建設または空港拡張プロジェクトはそれぞれに異なりますが、生態系の軽視と破壊、地元の人々や土地よりも経済とグローバリゼーションを優先する姿はどの地域にも共通です。世界的資本主義は、すべての空港拡大の動きの特徴です。この空港拡大の動きに抵抗することで、私たちはみな同じソシオパスイデオロギー [病的な反社会的思想] と戦っているのです。

公正な輸送システムへの 13 のステップ

1. 公正なシフト

世界企業経済が推し進める、最も環境を汚染し、最も気候に有害な輸送形態への依存に終止符を打たなければなりません。これには、関連セクターの労働者に負担をおしつけることのない輸送形態へのシフトに向けた話し合いと協働計画づくりが必要です。


記事全文は雑誌のバックナンバーをご利用ください。

318: Jan/Feb 2020

リサージェンス & エコロジスト 日本版

リサージェンス誌は、スモール・イズ・ビューティフルを提唱したE.F.シューマッハらが始めた社会変革雑誌で、サティシュ・クマールさんが主幹。英国で創刊50年、世界20カ国に読者4万人。環境運動の第一線で活躍するリーダーたちの、よりよい未来への提言で、考える糧を読者にお届け。また、詩や絵などのアートに溢れているのも特徴。

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