贅沢に暮らすコスト

デイビッド・ロドリゲス・ゴイエスは私たちに特権を当たり前だとしないことを思い出させます。

翻訳:馬場 汐梨


「Living Well at Others’ Expense: The Hidden Costs of Western Prosperity

(仮訳)他人の負担で贅沢に暮らす:西側の繁栄の隠れたコスト」

シュテファン・レーゼニッヒ (Stephan Lessenich) 著 

Polity Press, 2019

ISBN:9781509525621


他人の負担で贅沢に暮らすことは現代資本主義社会のやり方です。この本のタイトルが予言するように、著者は、地球の北側が経済や政治のシステムをコントロールして開発の利益を得、他方で地球の南側がその代価を払っているという現在の世界秩序の見方を提示しています。

 ステファン・レーゼニッヒは、いかに北側と南側の国々の日々の力学が不可分にリンクしているのかを説明しています。北側の国々と市民は資源や商品への渇望を、南側の国々の環境的、社会的な境界を侵害することで満たしています。そのプロセスをレーゼニッヒは「外在化」「他人の資源を搾取してコストを他人に押し付け、利益を享受し、私欲を促進しながら、他人の成長を邪魔し、妨げてさえいる」と言います。その間、南側の国々は北側に押し付けられたルールの餌食になり、集中的に彼らの自然資源や人的資源を搾取し、需要のペースに追いつく努力をしています。

 普通の言葉を使い簡単な例を示すと、「他人の負担で贅沢に暮らす」は地球村の社会力学の正体を「ゼロサムゲーム」として明らかにしています。一部の人々の高い生活水準は大勢の他人、人間以外の他者も含めた苦痛と退廃を通じてのみ持続できます。

 明白に、多くの知識人たちが何十年も、現代世界でのそのような不公平で不平等な富の分配については述べてきました。1950 年代ですら、資源の呪いは経済学者の間でポピュラーで、生物多様性に富む国々は戦争や貧困、搾取を経験するほどに「呪われて」いると指摘されていました。そして 1980 年代までには、世界中の草の根の運動が、力のある者が「環境のいいところ」を享受している一方で追いやられた人々が「環境の悪いところ」と戦っているという不公平を非難してきました。

 それにも関わらず、北側による南側の搾取以外にも、レーゼニッヒは知識人たちがあまり議論してこなかった話題、世界的な機会の不公平な割り当てへの社会的な否定についても取り扱っています。アメリカンドリームとそれに関連するエリート階級の考えは近年全世界の集団的意識を占領しています。そしてそれによって私たちは、「成功した」個人は彼らの大変な仕事の特権を得、また十分に大変な仕事をすれば誰でもその特権を得ることができると信じています。しかし、レーゼニッヒが明らかにするように、特権のほとんどは家族に直接的に、あるいは国の構造の中で相続され、大変な仕事は平等に受け継がれもしません。

 10 年以上前にコロンビア人作家のヘクトール・アバド・ファシオリンスは述べました。「栄養がなければ、私たちが平等に生まれるということさえ真実ではありません。なぜなら『栄養不足』の子供たちは既に不利な立場で世界にやってくるからです」レーゼニッヒの本はその不平等についてタイムリーに思い出させてくれるものです。またその本は、一部の人が特権を得て贅沢に暮らしているのは他の人々に機会や資源が欠如しているためだという現代世界の明確な定義でもあります。「他人の負担で贅沢に暮らす」は私たちは誰でもが一生懸命努力すれば成功できるという空虚な考えを暴いています。

 私は 10 年以上地球の南側の地方のコミュニティのために働いてきましたので、レーゼニッヒの洞察は驚くものではありませんでした。しかし、そのように不平等と近い関係にありながらでも、私自身の喜びが人々や自然の苦しみの負担によってもたらされていることを忘れがちです。ですから、この本は、私たちが解決側にいなければ問題側にいるのだということを気づかせてくれる類稀なる本です。

デイビッド・ロドリゲス・ゴイエス (David Rodríguez Goyes) はノルウェーのオスロ大学の博士研究者。彼は「南側の緑の犯罪学:環境差別を終わらせるための科学 (Southern Green Criminology: A Science to End Ecological Discrimination)」の著者です。

317: Nov/Dec 2019

リサージェンス & エコロジスト 日本版

リサージェンス誌は、スモール・イズ・ビューティフルを提唱したE.F.シューマッハらが始めた社会変革雑誌で、サティシュ・クマールさんが主幹。英国で創刊50年、世界20カ国に読者4万人。環境運動の第一線で活躍するリーダーたちの、よりよい未来への提言で、考える糧を読者にお届け。また、詩や絵などのアートに溢れているのも特徴。

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