波が教えてくれること

アンナ・ターンズが Tide School の創設者と対談

翻訳:浅野 綾子

ウィリアム・トムソンが潮を見ながら歩きはじめた時、デボン南部バンタムにうちよせる波が大きな音をあげて砕けました。バーフ島を見わたしながら、トムソンは数々の砂堆 [波浪や沿岸流によって運ばれた砂礫(されき)が 堆積してできた地形] と海に流れ込むエイボン川が、どのように離岸流[海岸に打ち寄せた波が沖に戻ろうとする時に発生する強い流れ。離岸流による海の事故は多いと言われる]や海流の複雑な構造を作り出すのに関わるかを説明します。王立地理学会の会員、地図のデザインも手がけ、「The Book of Tides(仮題:潮の本)」と「The World of Tides(仮題:潮の世界)」の著者でもあるトムソン。完璧にこの風景を読み解いて、この海岸線の地形が自然の力とどのように相互作用するかについて簡単な言葉で見事に表現します。そしてしゃがみ込んで砂の上に線を引き、浜の輪郭を描きながら、寄せてくる波がブレイクする[崩れる]のは水深が波の高さの半分になるところだけで起こる、だから大きな波は浜から離れたところでブレイクするのだと言いました。

 今年の夏、トムソンは電動キャンピングカーでイギリスの海岸線をまわり、自身の新しいタイド・スクール(Tide School:潮の学校)の活動として潮ウォークを開催する予定です。若く、好奇心旺盛なサーファーのトムソンは、周囲の状況と潮の働き方を理解すれば、もっと正確に波を読み、不必要なリスクを冒さずにサーフィンができると気づきました。「波がブレイクしていない場所を選んで海に入る方々もいるかもしれませんが、そこは周囲と比べて最も深く、離岸流が最も強い場所です。オリンピックの水泳選手でも離岸流にまともにぶつかって泳ぎ切ることはできません。離岸流に対しては垂直に泳いで流れの外へ出るしかないのです。」

 ケントにある自宅近くで救命ボートの乗組員をしていた頃、潮の力学の知識が全くないために起こる事故の多さにトムソンは衝撃を受けました。「皆さんに雲を読んだり、波を判断したりできるようになってほしいと思います。そうすれば、周囲の自然探検を存分に楽しめますし、ワクワクするような冒険に出発することもできますから。安全に、自然の力に対する理解を持った上で、です。」トムソンはそう言いながらドライバッグ [防水機能のある袋] から青ロープを取り出しました。トムソンが一方の端を持ち、私がもう一方を持ちました。トムソンがさっとロープを振ると、ロープは交互に山になり谷になり波をうって動きます。「これがどのように波が動くかです。ロープをつたわって動くのはエネルギーで、ロープそれ自体ではありません。ですから、外洋のうねりはエネルギーが移動するにつれて上がったり下がったりします。海水が波となって動くのは浅瀬に来た時だけなのです。」

 トムソンは続けて潮の流れがまさに同じように動くことを説明します。「満潮がランズ・エンドからドーバーまでの海峡に沿ってつたわるには 6 時間かかります。潮流の大きな 3 つの起伏 [満潮と干潮] がイギリス中を回ります。満潮の 1 サイクルは 12 時間。そして、ある地点を満潮の最上昇点が通過する時間は、月の満ち欠けと直接の関係があります。ですから満月の時、満潮はウィックとアバディーンでは真夜中で、ドーバーでは真昼だとわかるのです。」

 ある地域の潮の流れは遥かに大きな仕組みの一部にすぎません。「すべてが繋がりあっていること、潮汐波 [海水の潮汐現象を,波として扱うとき潮汐波という。満潮が波の山,干潮が波の谷] には国境がないことを思うと勇気づけられます。潮汐波は地政学などものともしないのです。地球規模で見ると、潮の流れは、月からの引力と地球の傾きの影響を受けた、無潮 [潮汐による海面の昇降が起こらないこと] の仕組みの中で波のように動きます。」 トムソンは色のついたゴルフボールを使い(白が月、青が地球、黄色が太陽)、月の満ち欠けが日々の潮の流れにどのように影響するかを説明します。3 つのボール全部が満月または新月に一列に並ぶ時、重なり合った引力が「大潮 (spring tide) 」を引き起こし、海流は普段よりも速くなり、満潮の海面は普段よりも高く、干潮の海面は普段よりも低くなります。

 さらに歩いてハム [バンタムの住宅地] に上がり、トムソンはエイボン川の川床を見下ろしながら海流についてさらに話を進めます。砂の上にもう1つ絵を描きながら、「地域レベルで海水の流れを理解するには、風を理解しなければなりません。」と言います。「日中、陸地は温められ、空気は上昇して陸地の方へと流れます。でも、陸地は海水よりも早く温まり、冷えるのも早い。ですから夜でも海には熱が残り、弱風が逆向きに海に向かって流れます。地球レベルでも全く同じことがおこります。これが、赤道近くでハリケーンが起こる理由なのです。」

 トムソンが長けているのは、科学をビジュアル化して、実際に役立つ、意味のある形で表現することです。気候変動についての考察も目を見張るような構成です。トムソンがキャンピングカーで次の潮ウォークの場所に向かう時、潮流と波のエネルギーを利用しながら次の場所へと旅します。いつの日かイギリスのエネルギーが完全に再生エネルギーになると強く信じながら。

tidalcompass.com

アンナ・ターンズ (Anna Turns) はフリーランスのジャーナリストで、持続可能性と海洋問題を専門とする。www.environmentaljournalist.co.uk

314: May/Jun 2019

リサージェンス & エコロジスト 日本版

リサージェンス誌は、スモール・イズ・ビューティフルを提唱したE.F.シューマッハらが始めた社会変革雑誌で、サティシュ・クマールさんが主幹。英国で創刊50年、世界20カ国に読者4万人。環境運動の第一線で活躍するリーダーたちの、よりよい未来への提言で、考える糧を読者にお届け。また、詩や絵などのアートに溢れているのも特徴。

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