前進する協同組合

安全で持続可能な植物ベースの世界的食料システムが、気候崩壊の最悪のシナリオを回避し、実現される。とヤン・グッディは書いている。

翻訳・校正:沓名 輝政

30年前、スティーヴン・ホーキング博士は次のような先見の明のある言葉を残した「何百万年もの間、人類は動物と同じように暮らしてきた。そして、私たちの想像力を解き放つ出来事が起こった。私たちは話すことを学んだ... 人類の最も偉大な功績は、話すことによってもたらされた... 最も偉大な失敗は、話さなかったことによってもたらされた... 私たちに必要なのは、話し続けることだ」

 もっとも、この発言はブリティッシュ・テレコムの広告のためのもので、ピンク・フロイドは、非常に美しいアルバム『The Division Bell』の中でこの言葉を取り上げている。しかし、その出自がどうであれ、この素朴さ/開放性は、閉鎖的な考え方や皮肉よりも常に勝利を収めるだろう。なぜなら、本質的に人間は社会的動物であり、協力こそが生存の鍵だからだ。

 現在の分断は、閉ざされた国境やますますファシズム的になる傾向といった極めて消極的な考え方と、ボトムアップの組織化や産業資本主義の利潤至上主義を一掃するという協力的なアプローチとの間にある。縁故主義、戦争、そして人生における良いもの、つまり野生の土地、海、仲間の生き物、持続可能な生活に対する冒涜。

 より小規模な例として、この分断と、それに関連するメディア主導の文化戦争に切り込み、激しい対立が想定された2つの部族の間に有意義な対話を開いたキャンペーン・グループ「Vegans Support the Farmers」を見てみよう。

 共同設立者のケリー・ウォーターズは、その経緯をこう説明する。「私たちは、2つのグループ間の分断を癒し、農業コミュニティに影響を及ぼしているメンタルヘルスの危機についての認識を高めることに注力してきました」

 「そこで有意義な関係を築き、農家が直面する課題への理解を深めました。私たちは今、このようなイベントで認められるようになり、友好的なお茶を飲みながら前向きな対話を育むことに忙しくしています」

 このアニマル・ライジングの分派による強力な組織的アプローチが功を奏していることは明らかだ。「Vegans Support the Farmers」は、2024年には15以上のヴィーガン・マーケット、会議、フェスティバルに参加し、中でも英国最大のヴィーガン・フェスティバル「ヴィーガン・キャンプ・アウト」には200人以上の参加者を集め、動物愛護運動は農家に対するアプローチを変えなければならないと新たに確信させた。

 こうした努力に加え、「4つのハーフマラソン」のスポンサー募集を通じ、メンタルヘルスに悩む若手農家のための1万ポンドの目標基金のうち、7000ポンド以上が集まった(農家の自殺率は英国で最も高い)。

 ウォーターズはこう付け加える「全体として、この経験は、ヴィーガン運動の大多数が彼らの生活と将来を深く気にかけていることを農家に示すことができました。ヴィーガンと農民が、おしゃべりをすることで互いの考えが変わっていくのを見るのは、とても素晴らしい経験でした。ヴィーガンに初めて会ったという農家もいます。私たちを分かつものよりも結びつけるものの方が多く、前進する唯一の道は共にあるということを如実に物語っています」

 Big Ag(工業的大規模農業)や儲け主義のスーパーマーケットに対抗するには、このような団結が不可欠だ。インドでは、ラウンドアップのような農薬の高コストが原因で、農家の自殺率が上昇している。ラウンドアップを使用する農家は、種の保存によって毎年種を蒔くことができる在来種を使用する農家とは異なり「ターミネーター」種子を毎年購入しなければならない。しかし、この世界のシンジェンタやモンサントは、人間よりも利益を優先する方針で、大多数の生産者(そして私たち)よりも優位に立っている。

 現実には – そして明らかに、さまざまな主流メディアや5大グローバル・テック企業(アップル、アマゾン、アルファベット、メタ、マイクロソフト)が私たちに与えている物語からは外れて-- 農家も菜食主義者も孤立し、同じように悪者扱いされている。しかし、このような共通点があるからこそ、協力が生まれ、植物性食生活への正当な移行についての議論が始まったのだ。

次の大きな出来事

 もうひとつの草の根運動は、ハルやブリストルといった遠くの都市で開催されている全国規模の住民集会ネットワーク「Assemble」だ。2024年春、XR(Extinction Rebellion)の共同設立者であるロジャー・ハラムは『Resurgence & Ecologist』誌に次のように語った。「私たちは10万ポンドの資金を調達し、70の集会を設立しました。[2024年の英国議会選挙における]無所属候補は、エコと社会の危機を横断する新しい社会運動を構築する方法でした」

 2022年のM25環状道路のガントリーの抗議活動の組織化に協力したことで、5年の刑期を課されたことを受け、彼は刑務所からこう付け加えた。「支配者層はその過程で、警察にドアを叩かせ、半世紀も刑務所に入れさせるだろう。どうすればいいのか?今こそ、非労働党の左派と気候変動への抵抗の場を融合させる時だ。束ねるために」「私たちは互いに学ぶべきことが多くあり、何百万人もの人々がイニシアティブとリーダーシップを渇望している。良識、思いやり、生存のためのプログラム。排出削減と地球システム修復のための資金を得るために、不平等を大幅に削減すること。そうでなければ、ファシズムと大量死しかない」

 このような波及効果や団結こそが、堅実で統制のとれた草の根の組織が配当金を生む鍵となることを証明している。ただ、今回は利益よりも人々との関係だ。

 また春には、若者主導のキャンペーン「Everybody Eats」が話題をさらった。商品代金の支払いを拒否したり、スーパーの食品ゴミ箱から商品を取り出したり、近隣のフードバンクに配ったりすることで、スーパーマーケットの利益を直接食い潰している彼らは、あるフードバンクのマネージャーから「天使」と評された。

 現在、イギリスでは約1500万人が食料と燃料の貧困状態にあり、これは世界第6位の経済大国での話だ。「Everybody Eats」はマンチェスターからヘイスティングスまでのスーパーマーケットを標的にし、彼らのロビン・フッド戦術について議論を巻き起こしている。しかし1年以上前、イングランド銀行総裁は「黙示録的な」レベルの食料価格上昇に達したと警告した。このような事態が、脆弱な貿易関係や輸入食品への衝撃的な依存の上に成り立っている。英国では、自国産の食品は全体の60%しかなく、そのうち果物や野菜は23%しかない。

 トーリー前政権下で策定された『国家食糧戦略』の提言は、我々の食糧システムがいかに崩壊しているか、そして農業政策が自然環境に与える破壊的影響について詳述している。私たちは、気候危機に対応できる回復力のある農業セクターを必要としている。その代わりに、農家は、安価な輸入品にしか興味のない数十年間の政府と、安値競争に明け暮れる食品産業によって、崖っぷちに追いやられてきた。

 気候崩壊という最悪のシナリオを回避し、現実的で持続可能な食の未来へと移行するために農家を支援するのは、世界規模で安全で持続可能な植物由来の食料システムだ。

 農地の70%以上を生産から切り離し、枯渇した土壌を回復させるために再び野生化させることができると推定されている一方で、増え続けるイギリスの人口に十分なホールフードを供給できると見られている。川や海はきれいになり、大気もきれいになる。野生の動物や昆虫が戻り、繁栄し、工業的規模の畜産や超大型トロール漁業は化石燃料のように死滅する – これらは座礁資産(市場環境や社会環境が激変することにより、価値が大きく毀損する資産)。

毎週木曜日午後7時、Assembleの全国会議のリンク: www.timetoassemble.org/events

ヤン・グッディ(Jan Goodey)はジャスト・ストップ・オイル(2022年11月、M25ガントリー抗議活動)の元受刑者。本誌の常連寄稿者であり、ニュールーツ生協の貸農園の菜園家、ブライトン・パーマカルチャー・トラストのコミュニティ果樹園ワーカーとして働く。

348: Jan/Feb25

リサージェンス & エコロジスト 日本版

リサージェンス誌は、スモール・イズ・ビューティフルを提唱したE.F.シューマッハらが始めた社会変革雑誌で、サティシュ・クマールさんが主幹。英国で創刊50年、世界20カ国に読者4万人。環境運動の第一線で活躍するリーダーたちの、よりよい未来への提言で、考える糧を読者にお届け。また、詩や絵などのアートに溢れているのも特徴。

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