災害が迫る今、世界は目覚め始めている
翻訳:浅野 綾子
WWFは生きている地球レポートを2年に1回発表していますが、2018年10月に発表されたレポー トもまた、私たちの地球に人間が及ぼす影響の大きさを考えさせるものです。依然として、右を 見ても左を見ても個体群の減少や絶滅、森林破壊を示す数値だらけですが、それでも希望の光は あるとトニー・ジュニパーは言います。
同時に起きている環境問題への認識の高まり、変化を求める運動の新興、政治的進展の兆しは、世界が自然破壊の規模と肩を並べ るまでに目覚めてきている証しにほかなりません。緊急事態であるとの意識を持ちはじめているのは活動家や運動している人たち だけではありません。大規模メーカーや数十億ドルを動かす投資企業の役員会議の場や、一部の国の政府の中でもそのような意識 が共有されています。その1番の理由は、自然界の秩序が適正に機能するかどうかが人間の健康、豊かさ、安全を決するとの理解 が進んでいることにあります。
ここイギリスでは、一般市民の環境保護を求める声も大きくなっています。その例としてあげられるのが、2017年のイギリス総 選挙に引き続いて政治戦略シンクタンクのブライトブルー (Bright Blue) が発表したレポートです。与党の保守党が環境保護に向け た公約を全くしなかったことは若い投票者の間における与党不振の原因の1つになりましたが、レポートではその理由が詳述され ています。総選挙後、イギリスの政界では環境問題への注目度が歓迎ムードをともなって上昇し、強力な超党派合意の基礎がつく られました。このレポートの調査結果はこうした展開の説明に貢献するものです。 イギリス国内のこのムード変化は、自然保護に向けた新たな運動が生まれる貴重なチャンスです。この運動は、一般市民が政治 的な活動をする大きな舞台にもなり得ます。ブライトブルーの情報と調査が私たちに教えてくれるのは、政府や企業がすべきこと は長い間存在し続けるということです。今まで足りなかったのは具体的な対策を要求する人々の声であり、対策を講じようとする 政治の意志だったのです。 今、気候変動法を可決させた政治的機運のあった2008年と同じように、世の風潮は変化を肯定する方向へ変わってきています。 このタイミングをつかんで、環境保護を目指す強力な新しい法律をイギリスで制定できるようにしなければなりません。自然の再 生を義務づける新たな環境保護法の名で、自然環境の修復を促進する新たな農業政策もあわせて策定するのです。 イギリスを含め、鍵となる国々が国家としてのリーダーシップを発揮すれば、自然と人間についての国際的な取り決め (Global Deal for Nature and People) に向けた提案を進展させ、2020年の合意へと導く支援ができるでしょう。これはおそらく各国の元首が 第75回国連総会で顔を合わせたタイミングでの合意となり、自然破壊はもはや合理的でもなく、許容もされないと説くことになり ます。そして、私たちは自然破壊の代わりに、自然界を修復する道のりを歩きはじめることになるのです。この合意を下で支える のは、その年に開催される一連の重要な首脳会談で結ばれる数々の取り決めです。生物多様性条約における新たな達成目標や、 [京都議定書の理念の] 再生という大望を掲げる気候変動についてのパリ協定、持続可能な開発目標 (Sustainable Development Goals) における環境への取り組みの強化、公海における海洋生物保護についての新たな合意などがあります。
これは大いなる志にもとづく計画です。そうでなくてはなりません。一般市民の全面的な協力と政治の意志があれば、私たちは 長く続く自然破壊に終止符を打ち、私たちの生命を維持する地球の修復にとりかかることができます。世界のリーダーがこの難局 に立ち上がるかどうかは、彼らの意志次第です。イギリスを含めた各国のリーダーにおいても同様です。望むなら、イギリスは今 必要とされている模範的な取り組みを世界に示すことができるでしょう。 人間活動が地球に与える影響の規模は、今や完全に持続可能なレベルを逸脱しています。目下の問題は、地球が脅かされている かどうかではなく、取り返しがつかなくなる前に私たちが行動するかどうかです。国際社会が行動を起こして自然と人間のために 国際的な取り決めを結ぶよう求める運動に、私たちは共に参画する必要があるのです。
トニー・ジュニパーは、WWFイギリスの支援運動・キャンペーン部門執行役員。
The World is Waking Up as Disaster Looms • Tony Juniper
Despite extinction and deforestation there is cause for hope
311:NovDec2018
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