禅と観る技術

禅の修行が、仕事に対する新たな理解へと私を導いた - 写真家デイビッド・ウルリッチが、その経緯をグレイス・ロジャースに語る

翻訳:浅野 綾子

ハワイを思い浮かべる時、私たちの多くは、月並みなパラダイスのイメージを心に描くでしょう。ゆったりと流れる時間に、青々と茂る緑の美しさ。砂浜に息を呑み、夕日は心を静める。それは、写真家のデイビッド・ウルリッチも同じです。とはいえ、この美しさは、彼をハワイに住みたいと思わせた1番の理由ではないのです。

 時は35年前、ウルリッチ33歳。彼は写真家としてのキャリアの頂点に立っていました。裏庭で木を切っていた時に、突然破片が顔に跳んできたのです。被った怪我は彼の人生を変えることになりました。何時間にもわたる手術の甲斐もなく、効き目である右目を失明。絶望の縁に落とされ、これからどうなってしまうのか想像もできませんでした。

 ウルリッチは、自叙伝的著書「The Widening Stream(広がってゆく流れ)」の中で、彼の気持ちを変え、勇気という揺るぎない感覚をもたらした悟りの瞬間についてこう思い出しています。「ふと心の中に疑問が生じた。片目という身体の小さな一部にすぎない、命と比べればそれほど重要でないものに囚われて心を解き放つことができないのなら、自分が死ぬ時、身体すべてを手放さなければならなくなった時にどうなってしまうのだろうかと」

 暗闇に落とされるような、予想もしなかった転機に1度は打ちのめされたウルリッチ。それでも、精神的に大きな痛手を負った事故ながら、命までは奪われなかったという肯定的な面に目を向けることができるようになりました。ウルリッチは今、心を解き放つという深遠な人生の学びの機会を得たとして、この事故を受け入れています。

 「事故の影響で、身体、感情、心理、魂、あらゆるレベルで変化が起きました。自分の魂が鎧として築いてきた、それまで疑問にも思わなかった凝り固まった考えの多くを、この変化が打ち破ってくれたのです。それは自分をよみがえらせ、あらゆるレベルで以前とは違う自分にエネルギーを再び結集させる機会になったのです」

 数年後にハワイへ写真撮影の旅に出た時のこと。ウルリッチは、人生を変える力がある、「不死鳥のような」ハワイの地形が宿す自然の力に惹きつけられました。その後何度かハワイを訪ね、ウルリッチは、自分が「この地の一部であり、この地は自分の一部である」と気づいたのです。ハワイ、それは肥沃で、生命が躍動し、彩りあふれる島。火山の噴火という力が働かなければ存在し得なかった場所です。隣り合わせる破壊と美しさに、彼の心が共鳴したのです。ウルリッチがそのことに気づくには何年もかかりましたが 。。。(記事全文は定期購読にてどうぞ)。。。「カメラを使うことは、人が世界ともっと豊かにつながれるように導く、内面の修行として捉えることもできますし、自分の疑問や、考え、発見を他の人たちと分かち合う機会としても捉えることができるのです」とウルリッチは言います。

 ウルリッチの本には、学ぶのに遅すぎることはないという安心感が吹き込まれています。「自分自身のビジョンや声を見つけるのに年をとりすぎている、忙しすぎるということはありえません。誰に対してでも私はこう言いますね」と語ります。

 そして、こう続けるのです。「私にとっての挑戦は、多くの人にとってもそうだと思いますが、好奇心、希望や[希望が感じられる]何かをしたいという感覚、『無知』の感覚を持ち続けること。わかったと思った途端、私たちは多くの可能性を閉ざしてしまうのです」

 みな手探りなのです。

グレイス・ロジャース (Grace Rodgers) は、フリーランスライター、写真家。デイビッド・ウルリッチの著書「(仮題:禅カメラ~創造力の目覚め:日々の写真実践で目覚める」はワトソン・ガップティル (Watson-Guptill) から出版。

Zen and the Art of Seeing • Grace Rodgers

Photography informed by Buddhist practice

309: Jul/Aug 2018

リサージェンス & エコロジスト 日本版

リサージェンス誌は、スモール・イズ・ビューティフルを提唱したE.F.シューマッハらが始めた社会変革雑誌で、サティシュ・クマールさんが主幹。英国で創刊50年、世界20カ国に読者4万人。環境運動の第一線で活躍するリーダーたちの、よりよい未来への提言で、考える糧を読者にお届け。また、詩や絵などのアートに溢れているのも特徴。

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