自然の言語を話す

ステファニー・ボクソールは、環境危機に対する新しいアプローチを提供するプロジェクトに感銘を受けている。

翻訳校正 :沓名 輝政

気候の非常事態と自然の状態の危機に直面し、圧倒されそうな気持ちになりがちです。しかし、環境に対する考え方を微妙に変えることで、そうした無力感を克服できるかもしれません。環境研究者のフィリッパ・ベイリー(Philippa Bayley)とビジュアルアーティストのネヴィル・ギャビー(Neville Gabie)は、「living-language-land」というプロジェクトで、私たちを助けてくれる方法を見つけたようです。

 2021年、彼らは世界中の絶滅危惧言語を話す人々に接触し、大地との関係を反映した言葉を教えてくれるよう依頼し始めました。「私たちは、さまざまな環境や風景、そして人々の多様な生き方を知る窓口を作りたかったのです」とギャビーは説明します。「そしてこのプロジェクトは、耳を傾けることの喜びを深く教えてくれるものでした。他の人の声に耳を傾けて初めて、共感という旅に出られるのです。そして、聞くことで変わったのは、他のコミュニティがどのように地球や自然、そしてお互いにつながっているかを少し理解することを通じた自分自身の経験の見方や捉え方です」

 8カ月間にわたって寄稿者を募り、選んだ言葉をビジュアルアートや映像とともに、プロジェクト専用のウェブサイトで一つひとつ紹介していきました。そして、11月にグラスゴーで開催された国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)のグリーンゾーンで作品を発表しました。2022年は「国連の国際先住民言語の10年」の始まりであり、このプロジェクトはまさに時宜を得たものと言えます。

 ユネスコの世界言語地図によると、世界には8,000以上の言語が記録されており、そのうち約7,000が現在も使用されています。しかし、「Living Tongues Institute for Endangered Languages」[絶滅危機にある言語を支援する米国オレゴン州の非営利組織]によると、2100年までに3,000以上の言語が消滅の危機に瀕しています。地球が危機に瀕していること、そして言語がその土地の精神だけでなく、そこに住むすべての生き物の関係を伝える上で非常に重要であることを考えると、これらの要素をひとつにまとめるこのユニークなプロジェクトに勝るものはないでしょう。

 このコレクションのコンセプトの多様さには驚かされますが、スコットランドのアーティスト、マルコム・マクレイン(Malcolm Maclean)の寄稿は、特に適切な方法で要約しているように思われます。彼の言葉「aibidil」はスコットランドのゲール語で「アルファベット」を意味します。ゲール語は、現在ヨーロッパで話されている最も古い言語の一つで、18文字のアルファベットはそれぞれ木で表現されています。マクレインの寄稿に付随する映像では、引退した森林管理者ボイド・マケンジー(Boyd Mackenzie)が、ヘブリディーン地方の小作地にこれらの木を植え、誰でも木々の合間を歩ける生きたアルファベットを作り上げたことが紹介されています。

 「1980年代から1990年代まで、ゲール語はスコットランドの公的な場ではほとんど目にすることができませんでした」と語るマクレインは、アートと遺産のコンサルタントであり、スコットランド・ゲール語の復興を精力的に推進していて、このプロジェクトに当然参画するものと考えられています。ユネスコ・スコットランドの元議長である彼は「国際先住民言語の10年」を大変喜んでいます。「ユネスコが『国際先住民言語の10年』を宣言したことがどれほど嬉しかったか想像がつくでしょう。他のプロジェクトにも参画できたらと思っています」と言います。

 モーリシャスの学者、ヘリナ・クムシング(Helina Hookoomsing)とシャミーム・ウズィアリー(Shameem Oozeerally)は、彼の熱意に共感しています。「私たちは、伝統的な先住民の言語、知識、遺産は、生態系、社会、気候の正義にとって最も重要な文化システムの一つであると信じています」とクムシングは言います。エコ言語学を専門とする彼女とウズィアリーは、モーリシャスのクレオール語で「森へ」「荒野へ」を意味する「danbwa」で協力しました。モーリシャスには先住民がおらず、そのため先住民の言葉もないのです。「この島の先住民は動植物なのです」とクムシングは言い、こう付け加えました。「シャミームと私は、言語と環境の間には、深い、ほとんどへその緒のようなつながりがあると信じています。それらについていかに語るかという点のみならず、いかに地球と触れ合うのかというつながりです。

 この地球との相互作用という概念は、プロジェクト全体にわたり反映されていますが、アメリカのラコタ族の協力者であるティオカザン・ゴーストホース(Tiokasin Ghosthorse)は、この考えを印象的に表現しています。ラコタ語で「意識」や「知識」を意味する「wíyukčaŋ」は、自然の外側ではなく、その一部であるという考えを反映しています。ゴーストホースは、彼の言葉が名詞ではなく動詞であることを説明します。「私たちにとって、太陽は動詞。なぜなら、その成すことと在り方を見ると、常に躍動しているから。私たちが地球を支配するのではなく、地球との関係を維持すれば、すべての生命はここに存在することになる。もちろん、私たちは地球を必要としていますが、地球もまた私たちを必要としています。私たちは関係の中にいるのですから、私たちの言葉はその関係を反映しているのです」

 「living-language-land」は、私たちが自然や環境について考えるときに使っている言葉を吟味するよう促すことで、その関係を探り、前向きで相互的な方法で自然と関わるためのツールを提供しています。このプロジェクトに着手する前、ベイリーは、生態学者ロビン・ウォール・キンメラー(Robin Wall Kimmerer)の著書『Braiding Sweetgrass』からインスピレーションを受けていました。同著でキンメラーは記しています。「ある場所のネイティブになるには、その言語を話すことを学ぶべきです」

 ベイリーは言います。「当時、私は環境保護活動の伝統的な手法に疲労感を覚えていました。緊急事態に直面すると、より大きな声で叫びたくなるものです。しかし、別のアプローチとして、異なる言語やコミュニケーションの方法を模索することもできます。この本は、自然界と私たちの関係の語彙を、優しくかつ力強く広げるにはどうしたらよいかを私に考えさせるものでした」

 協力者と共に、ベイリーとギャビーは、「国際先住民言語の10年」を変革の機会として歓迎しています。「私たちは、環境危機の共通語に挑戦したいのです。そして、他の見方や考え方を共有するために与えられたこの招待状の土台を作りたいのです。文化的多様性の反映としての言語の認知度を高めるためにできることは、すべて本当に重要なことです」

 最後に、カナダのマリー・ラクロワ(Missinak Kameltoutasset)が、イヌ語の「tshinanu」(包括的な「私たち」、すべて対等という意味)を紹介しました。「私たちの環境とは、土地、森、植物、昆虫、動物、水、空気、そして創造主からの贈り物の管理人である人間のことです」と彼女は言います。「相互依存の生命の輪」です。代々、私たちの教えでは、地球は私たちのものではなく、むしろ私たちが地球のものであると言っています。

 私たちが地球との関係の次の段階を話し合うとき、おそらく心に留めておくべきことでしょう。

「living-language-land」プロジェクトについては、www.living-language-land.org をご参照。

ステファニー・ボクソール(Stephanie Boxall)は、英国南西部を拠点とするフリーランスのライター。@BoxallStephanie

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リサージェンス誌は、スモール・イズ・ビューティフルを提唱したE.F.シューマッハらが始めた社会変革雑誌で、サティシュ・クマールさんが主幹。英国で創刊50年、世界20カ国に読者4万人。環境運動の第一線で活躍するリーダーたちの、よりよい未来への提言で、考える糧を読者にお届け。また、詩や絵などのアートに溢れているのも特徴。

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