この世界を救う航海

ポール・ブラウン (Paul Brown) が敬意を表したグリーンピースの船とその使命をめぐる躍動(言葉を選ぶと)する活動記録。

「Rainbow Warriors: Legendary Stories from Greenpeace(虹の戦士たち:グリーンピースの伝説的物語)」マイテ・モンポ (Maite Mompó) 著ニューインターナショナリスト。2014年。 ISBN: 9781780261720

グリーンピースには、強い精神的な要素があります。設立に関わったネイティブ・アメリカンとクエーカー教徒双方からの影響で、グリーンピースの船の乗組員たちに受け継がれています。乗組員たちは、自然環境を守り、反捕鯨運動に見られるように生きものを守るという理想に身を捧げ、原子力にも強力に反対しています。

 グリーンピースの旗艦の名は、クリー族【ネイティブ・アメリカンの一部族】の伝説「虹の戦士たち」に由来します。この伝説は、戦争とこの地球の破壊に終わりをもたらす、高い霊性を持つ人たちのグループについての伝説です。グリーンピースの「戦士たち」の抗議スタイルは、クエーカー教徒が核実験反対の証人となったことが源です。クエーカー教徒たちは、大気圏実験を防ぐため侵入禁止海域まで航海し、自ら危険な場所に身を置いたのです。

 この本は、グリーンピースの船自体、より正確に言えば初代「虹の戦士号」とその名を継いだ船合わせて3隻の旗艦と、7つの海を航海し、傷つくことや逮捕される危険に身を晒しながら理想の実現を目指した乗組員たちに賞賛を送るものです。

 私もかつてはこの船や他のグリーンピースの船に乗り、この本に出てくる多くの人たちと航海を共にしました。乗組員たちの献身、操船技術たるや類まれなもので、この本はそのことを讃えるものとして申し分ありません。。。しかし、これで全てではないのです。

 どんな組織の中でもあるように、いつも事が計画通りに進むわけではありません。特に、知能的で時に威圧的な相手(フランス軍のような)に対する時は。

 この本の中には、いくつかの判断ミスについてのごまかしや、成功や運動の勝利を強調しているところがあります。また、強い個性を持った多くの人たちが活動に貢献する中で、乗組員と、陸上で活動方針を決める事務方のメンバーとの間で意見の食い違いも生まれます。大抵これは理想実現の創造のために生まれる緊張状態ですが、その大部分はここには書かれていません。

 ある意味、この本は、イメージに敏感なとある組織のありのままの活動記録というよりは、むしろグリーンピースの公式活動記録のようなものと言えるでしょう。

 初代「虹の戦士号」は、底引き網漁船を改造して帆を取り付けたもので、1985年にオークランドでフランスの秘密情報機関に爆破され写真家が一人亡くなった事故の前に私も乗船したことがあります。この出来事までは、グリーンピースの歴史は「ダビデとゴリアテ」の物語【弱小な者が強大な者を倒す喩えとして使われる旧約聖書の物語】をたどるものでした。しかし、この国家的テロリズム行為によって、世界中から同情と寄付が集まり、グリーンピースはほぼ一夜にして飛躍的に拡大を遂げたのです。以来今日まで成長を続けています。

 この本は、組織の急成長により引き起こされたストレス、もしくは急成長に伴う船の高度化や費用、そもそも船の高度化や費用をかけることへの道徳的な是非については触れていません。また、どの運動なら収益があるか、収益の見込めない運動のいくつかをとりやめるべきかというような経営上の決定についても触れられていません。

 しかしながら、公平な視点から言えば、著者がグリーンピースの世界に足を踏み入れたのは、初代「虹の戦士号」が沈められ、その名を継いだ2代目の船が活動を再開してからずっと後のことです。著者がグリーンピースの活動に参加した時は、すでにグリーンピースの伝説が築かれた後でした。先人たちや今も後に続く者たちが持つ理想家としての魂、この魂が著者の中にもあることに疑いはありません。本質的に、この物語は善良な人々の物語であり、グリーンピースにはそうした人たちが大勢関わり続けているのです。

 この本には、地図、図表や写真がふんだんに使われており、グリーンピースの活動の様子や、多くの国々の人たちが参加している様子が分かります。地図や写真などが数多く用いられていることは何ら驚くべきことではありません。活動の様子を社会に知らしめるために写真家やジャーナリストを同船させることは、グリーンピースのメッセージを世に送るために不可欠なことなのです。このような周知活動は大変上手く行われています。

 最後に、これは世界をより良く変えようとしている組織と、「虹の戦士」の化身となった3つの船の乗組員たちに捧げられた本です。乗組員たちはこの本の中でまさに勇猛な名戦士として扱われています。もしかしたら、この本の一番の読みごたえは、グリーンピースの運動それぞれを詳細に記した背景事情と、なぜグリーンピースがそうした運動を担うことを決めたのかという部分かもしれません。その理由は簡潔で力強く、読者自身があたかもグリーンピースの活動家になったかのように、読者をグリーンピースの活動の世界へ引き込みます。というのも、環境をめぐる彼らの主張のほとんどに反論の余地はないからです。この本を読み、私が思いをより強くしたこと。それは、もしグリーンピースがなかったら、この地球の豊かさはもっと失われていただろうということです。

ポール・ブラウンは、環境ニュースネットワーク (Climate News Network) の共同編集者であり、ガーディアンの元環境部記者。反捕鯨運動や反核デモのためにグリーンピースに同行し、南極海に航海した経験を持つ。

翻訳:浅野 綾子

Sailing To Save The Planet • Paul Brown

Review of Rainbow Warriors: Legendary Stories from Greenpeace Ships

290: May/Jun 2015

リサージェンス & エコロジスト 日本版

リサージェンス誌は、スモール・イズ・ビューティフルを提唱したE.F.シューマッハらが始めた社会変革雑誌で、サティシュ・クマールさんが主幹。英国で創刊50年、世界20カ国に読者4万人。環境運動の第一線で活躍するリーダーたちの、よりよい未来への提言で、考える糧を読者にお届け。また、詩や絵などのアートに溢れているのも特徴。

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