世界を変えるための3つのステップ

社会変革は草の根から始まるとサティシュ・クマールは書いている。

翻訳:馬場 汐梨

大きな川は小さな泉から生まれます。その泉は人里離れた丘から湧き出ます。世界を変える大きなアイデアも、辺縁から生まれます。社会を変える素晴らしい活動は中心からは生まれません。つまり、小さな場所からスタートし、社会の無名のセクションから孵化するのです。

 ローザ・パークスは席を譲ることを拒否しました。そのことがバスのボイコットに繋がり、小さな町の牧師であったマーティン・ルーサー・キングや他の草の根レベルの多くの人々を鼓舞して、最終的にアメリカにおける人種不平等を終わらせる大きな運動となったのです。パークスもキングもホワイトハウスから来たのではありませんでした。彼らは周辺から来たのです。しかし人種平等の運動は政府の中心や社会の主流派に衝撃を与え、今ではパークスやキングの写真がホワイトハウスに飾られています。

 エメリン・パンクハースト、マハトマ・ガンディー、レイチェル・カーソン、ネルソン・マンデラ、グレタ・トゥーンベリ、マララ・ユスフザイなど、全ての活動家は彼らの変革の旅を周辺から始めています。そして彼らの理想や価値、彼らの科学やイノベーションが人気を得て、草の根レベルのより大きな意識となります。一度新しいビジョンや価値が人々から大きな支持を得ると、政府も耳を傾け始めます。彼らはそれらの理想や価値のメリットだけではなく、彼らへの投票を考えており、その結果これらの理想を受け入れるのです。こうして実用主義と理想主義が合流し、人気のある需要を満たすために法的な枠組みが受理されるのです。

 一旦政府が参加すれば、産業や商業は新しいビジネスチャンスや変化の利点を見出し、政府の期待に沿う商品やサービスに投資し始め、一般市民の支持を得ることになります。

 こうしてエコな、社会的な、あるいは政治的な変化は、急進的な理想主義者や活動家のビジョンと、実用主義の政府による法的な枠組み、ビジネス社会による遂行の連携となるのです。

 気候危機を起こしている化石燃料の代わりになる再生可能エネルギーの例を見てみましょう。1973年、CAT(The Centre for Alternative Technology:代替技術センター)がウェールズの人里離れた丘に設立されました。当時はイギリスのどこであれ風力タービンもソーラーパネルも何一つ再生可能エネルギーを生み出していませんでした。風力や太陽光エネルギーの実験を始めた設立者たちは狂っているか非実用的な理想主義者だと考えられていました。

 政府やビジネス界、とりわけ石油産業の誰もが、いつの日か風力や太陽光エネルギーが国のエネルギー需要に応える本当の資源になるとは思ってもいませんでした。しかし徐々に、本当に多くの人がCATを訪れるようになりました。エコツーリズム、むしろエコ巡礼の目的地になったのです。

 再生可能エネルギーを支持する草の根の強い運動が起こり出しました。地球の友(Friend of the Earth)やグリーンピース、その他多くの環境NGOがCATのプロジェクトを支持しました。彼らは、人々の再生可能エネルギーの運動を促進し、強くしました。そうしてはじめて、政府の補助金や、最終的にはビジネスも、Solar CenturyやGood Energy、Ecotricityといった企業に投資するようになりました。主流の大手電力供給者ですらその変化を受け入れています。何百万ものソーラーパネルや風力タービンがイギリス中にだんだん広がっていきました。エネルギー革命となったのです!2020年までにイギリスで消費されるエネルギーの1/4以上が風力や太陽光エネルギーによってもたらされるようになりました。

 過去40年間に起きた再生可能エネルギーの発展と広がりは、社会変革を成功させるには理想主義のNGOと、実用主義の政府と、現実主義のビジネスが手を取り合って共にはたらく必要があるということを示しています。その一方で、NGOは前進し続けて急進性を保ち、政治家や起業家に対して倫理的でエコで社会的な価値が常に彼らの行動原理であるべきだと思い出させる必要があります。地球の幸福という理想に従属するものとして、常に政治的あるいは商業的な配慮があるべきなのです。

 この惑星は継続する進化の過程にあります ー 物質的な進化だけでなく、意識の進化もです。新しいガンディー、新しいグレタ、新しいマンデラ、新しいマララが進化の過程の一部として常に必要とされています。最初は彼らはバカにされ、退けられたり迫害すらされるのですが、最後には受け入れられ、支持されるのです。彼らの急進主義が時には忘れられることもありますが、じわじわと効く影響は生きています。

 活動家や理想主義者はどのように政治家を説得し、企業家を鼓舞して倫理的なエコな価値を受け入れてもらえるかと度々質問します。答えは、確かな勇気と、強い辛抱、深い関わり合いを持って、ただし即座の結果を全く期待せずに行動することです。

 この意識を持って、私たちは3つのことをしなければいけません。

 まず第一に、あなた自身が世界に望む変化になりなさい。言葉や思考は実践から力を得ます。1000の言葉より1つの例の方が強いです。ラジエーターが熱を放出するように、私たちは変化を放出しなければなりません。CATの先駆者は、国の至る所から注目を浴びる輝かしい模範を示しました。これが始めのステップです。変化になる。

 2つ目のステップは、変化を伝えることです。全ての偉大な理想主義者や活動家は同時に偉大な伝達者でもありました。伝える手段はたくさんあります。パブロ・ピカソは平和の理想を絵画を通して伝えました。彼の痛ましいゲルニカのイメージは世界中の多くの人々感動させ、心を動かしました。レイチェル・カーソンは「沈黙の春」という素晴らしい本を書くことで伝えました。その本は環境運動の基礎になりました。モンティ・ドンは賞賛すべき園芸家として伝えました。マーティン・ルーサー・キングは「私には夢がある(I have a dream)」という熱烈なスピーチによって伝えました。私たち活動家は全員、世界に変化をもたらすためのコミュニケーションスキルを身につける必要があります。

 そして3つ目のステップは変化を組織することです。自分のビジョンや理想を表明し、促進するための組織を始めましょう。イヴ・バルフォアは英国土壌協会を、ゲイロード・ネルソンはアースデイを立ち上げました。ジェーン・グドールはルーツアンドシューツ(Roots & Shoots)を立ち上げました。ドロシー・ストウはグリーンピースを立ち上げました。同じように、地球の友、緑の党やその他多くの組織は世界を変えたいと思った急進的な夢想家によって立ち上げられました。そして彼らは実際に世界を変えました。私たちは組織を立ち上げることもできるし、組織に参加することもできます。絶滅への反逆(Extinction Rebellion)に参加しましょう。未来のための金曜日(Fridays For Future)に参加しましょう。あるいは、他の、あなたの心に語りかける組織に参加しましょう。

 これらが、3つのステップです。変化になる、変化を伝える、変化を組織する。そうすれば私たちは政府やビジネスを鼓舞して変化に参加させられるでしょう。

サティシュ・クマールはリサージェンス&エコロジスト誌の名誉編集者です。彼の最新の本「Pilgrimage for Peace: The Long Walk from India to Washington(平和への巡礼〜インドからワシントンへの長い歩み)」はリサージェンスショップでお求めいただけます。

Three Steps to Change the World • Satish Kumar

リサージェンス & エコロジスト 日本版

リサージェンス誌は、スモール・イズ・ビューティフルを提唱したE.F.シューマッハらが始めた社会変革雑誌で、サティシュ・クマールさんが主幹。英国で創刊50年、世界20カ国に読者4万人。環境運動の第一線で活躍するリーダーたちの、よりよい未来への提言で、考える糧を読者にお届け。また、詩や絵などのアートに溢れているのも特徴。

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