木を見て森を見る
イギリスの森にアートを取り入れる構想をインディア・ウィンザー=クライブが報告
翻訳: 坂井 晴香
森林は、気晴らしと休息の場であり、深い 考察と喜びが得られる場所です。森林は歴 史、神話や伝説などが時を経て何層にも編 み込まれたタペストリーです。過ぎ去りし 集いや出来事の生き証人であり、数多くの 植物や野生動物の住処となっています。長 きにわたり、芸術家や職人に材料やインス ピレーションを与えて来ました。 現在、芸術体験の場として森林を探索す るという興奮するような構想があります。 ジャーウッド森林開放 (Jerwood Open Forest) — ジャーウッド慈善財団 (Jerwood Charitable Foundation) とイングランド森林委 員会 (Forestry Commission England) の協働イ ニシアチブで、イングランド芸術評議会 (Arts Council England) が支援 — は若手の 芸術家にイギリスの公有森で現す作品の「大 胆で幅広い」提案の提出を促しています。 要旨はありません。提出作品が、一時的な、 もしくは永続的などんな手法でも、規範に なり得ます。 ジャーウッド森林開放の初回は2014年に 行われ、2つの芸術活動が委託されました。 セミコンダクター (Semiconductor) という名 前で活動している、ルース・ジャーマン (Ruth Jarman) とジョー・ガーハート (Joe Gerhardt) が最初に委託されました。セミコ ンダクターによる常設の球状の公共彫刻 「Cosmos」は、サリー州のアリスホルト森 (Alice Holt Forest) の中に落下した隕石のよ うに置かれています。風、水の蒸発、木か ら放出された二酸化炭素の受取や喪失といっ た、28メートルの塔 (flux tower) の頂上から 集めたデータの1年間に相当する測定値に、 その装飾と表面の素材は基づいています。
セミコンダクターはこの科学的なデータを 再構築し、明確な彫刻の形にしました。 2014年の他方の受託者である作曲家のク リス・ワトソン (Chris Watson)、プロデュー サーのイアン・ペイト (Iain Pate) が烏のね ぐらに学際的な音を取り入れて演奏しまし た。「烏:ノーサンバーランド州にあるキー ルダー水と森の公園でのオーディンとの会 話 (Hrafn: Conversations with Odin, in Kielder Water & Forest Park, Northumberland)」と題し
てノルウェーの神話が描かれました。今で たそがれ
はめったに経験でない、黄昏時に2,000もの 鳥がねぐらへと戻る音はその場面に出会っ た人々に驚くべき影響を及ぼしました。 初回の委託の成功に続いて、今年は2期目 の芸術家グループが 6 カ月の研究と開発過 程をジャーウッド森林開放の支援を受けな がら仕上げているようです。5人の芸術家、 レベッカ・ベイナート (Rebecca Beinart)、マ グズ・ホール (Magz Hall)、キース・ハリソ ン (Keith Harrison)、デイビッド・リカード (David Rickard)、デイビッド・ターリー (David Turley) は、委託提案を作り、実現可 能性を試し、可能性のある場所を探し、今 年の11、12月の「ジャーウッド視覚芸術ロ ンドン大会 (Jerwood Visual Arts in London)」 のグループ展示で締めくるべく活動をして います。展示会の間、1人の芸術家が選ば れ、提案を実現するために3万ユーロの委託 料が授与されます。 選考者にはキャサリン・クラーク (Katherine Clarke) とネヴィル・ガビー (Neville Gabie)、ライターでありキュレー ターでもあるジョイ・スリーマン (Joy Sleeman) がいます。最終選考リストに残っ た5人の芸術家によって表現さた想像力に長けた様々な取り組み方は、スリーマン曰く 「そういった場所がひらめきを与えるよう な豊かな発想力を示唆しています。人間の 歴史との関わりで、都市環境と人間との関 係で、個々の木々との密接な関わり方を通 じて、いずれかにより、芸術家たちは森林 へ新たな経験を取り込む熱意を信奉してい きます。」 森林は今日イギリスの国土の13%となっ ています。第一次世界大戦の間に材木に対 する需要がイギリスの森林を激減させまし た。森林委員会は1919年に戦略的に木材資 源を再建し維持することを商業的に取組む ために設立されました。今日、商業的な森 林という面を維持しつつも、人間の楽しみ、 生物多様性と生態系の環境のために森を保 全する役割を委員会は果たしています。 この歴史が芸術家のレベッカ・ベイナー トの興味を引き寄せています。彼女は森林 委員会の現代的な枠組み、森を守る役割や 建設された環境としての森林について検討 しています。ベイナートは、ブリストル郊 外のレイウッドのような彼女が活動を計画 している特定の地域(エイボン渓谷特有の アズキナシの住処)、気候変動や木の病気 への対応として行う活動、これらに関係す る物語について調査しています。 1990年代におけるニューベリーバイパス (Newbury bypass) への反対に関わった人々へ のインタビューからビクトリアの植物採集 者の調査まで、ベイナートは2つの森林にお いて実行する大規模なライブ作品の提案の文句に盛り込む話の材料を集めています。 彼女は30~50人ものナレーターを通じてこ れらの逸話を伝えることを構想しています。
他方、音とラジオ無線の芸術家であるマ グズ・ホール (Magz Hall) は、「木々が参加 者の夢をそれぞれささやき合うことを遊び 心満点で可能にする、森林を通じたラジオ 無線のインタラクティブなトレイル」を開 発しています。「木々の囁き (Whispering Trees) 」という彼女のジャーウッド森林開 放での提案はフレンズ・オブ・ベッジベ リー・パインタム (Friends of Bedgebury Pinetum) と一般市民メンバーと共に、森林 内の野鳥観察小屋風のスタジオの中で秘密 や夢を録音する会合の計画を立てています。 現場収録の電波を活用して、異なる木々に よるこれらの夢の「放送」に聴衆たちが チューニングできます。 ホールの提案は、以前のヨークシャー彫 刻公園での環境のための芸術 (Art for the Environment) プロジェクトから出たもので あり、オークを小さなラジオ局に変える「木 のラジオ (Tree Raido)」です。彼女は木に伝 送器を付けて、木の中のセンサーとプロー ブを介して、木の反応を光と動作と水分で 中継して、「そうすることで、木々が独自 の内容を放送しました。」
また、ジャーウッド森林開放に選出され たのはキース・ハリソン (Keith Harrison) で す。彼は産業都市跡地にできた都市郊外を レクリエーションの場として森林を開拓し ています。スタッフォードシャーのキャノッ ク・チェイスの近くにある「ジョイ・ライ ド (Joy Ride)」と題された大規模な実演的な 彫刻を彼は提案しました。 デイビッド・リチャードは、「回帰」と 題する、森林を循環する旅を探求する再生 材木の設置を提案しました。2つの全く異な る方向性を持つものとして森林調査を説明 しています。まず初めに、成長して光合成 する木々については、森は現在形で、次に、 材木を使う建物については、森は過去形で す。 最後は、デイビッド・ターリーの提案で、 「木の男たち。1947年からの森日記 (Men of the Trees Forestry Diary from 1947)」(ケント 州アシュフォード郊外にあるオールストン の森 (Orlestone Forest) において木を植える 男の日常生活を描いています。)が中心と なっています。ターリーは、記念すべき毎 日、日々の作業が将来に影響を与えるという考えや、「私たちの生きる期間を超えた 寿命を持つ木を理解すること」を探求して います。 ジャーウッド森林開放のために制作され るその作品は、芸術家がどのように環境と 繋がり、公の場で彼らの作品に自然との現 代的な対話を組込むのかを例証しています。 それぞれの提案には、身を置くという経験 に対する人々の理解、考えを変える可能性 を秘めており、多様な歴史の積み重なりや 私たちの琴線に触れる歴史の性質がありま す。芸術的実践に挑戦し、芸術家に新たな、 異なる作品の機会を与えることに加え、芸 術的経験の場となる森と、環境との繋がり をより深める可能性を示唆しています。
インディア・ウィンザー=クライブ (India Windsor-Clive) はフリーランスの芸術ジャー ナリストです。 ジャーウッド森林開放の展示は11月2日~12 月11日までロンドンのジャーウッドスペー スにて公開されます。 www.jerwoodopenforest.org
299: Nov/Dec 2016
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