経済成長が貧困をもたらす時
ジェリー・マンダーは、グローバリゼーションの危険性に関する傑作本 の最新版を歓迎しています。「懐かしい未来」ヘレナ・ノーバーグ=ホッ ジ著(2016年 Local Futures 刊。ISBN:9780692530627)です。
翻訳:斉藤 孝子
その原著、ヘレナ・ノーバーグ=ホッジ著「懐かしい未来」は1991年に出版されました。企業のグローバル化の結果 について非常に詳細な描写、分析、予測で、当時正に、そのグローバル化が勢いを増していました。主な焦点は、新 しいグローバル経済が、インド、チベット、中国、パキスタンの間に、折り重なるようにある山岳地域に住む、ラダッ ク先住民に与えた深刻な影響についてでした。今回の最新作ではさらに、グローバル化の悪影響が拡大し、それに対 する世界的な抵抗運動についての報告がなされています。 私の見解では、この本とその分析について最も重要なのは、ノーバーグ=ホッジが、旧来の知的分析ではなく、地 元文化への彼女自身の深い関わりに基づいていることです。 つまり、小規模農業、家族慣行、地方統治など、古代の 伝統に完全に満足している、素晴らしい地元文化との関わりです。「ラダックでは、これまでに見たどんなところよ りも美しい景色、これまでに会ったどんな人々よりも幸せで平和な人たちと出会いました」と彼女は記しています。 著者は1975年に初めてラダックを訪問し、その後毎年訪れ続けました。懐かしい未来では、彼女がそこで見たり経 験したりしたことの美しいディティールを描写していますが、平和で民主的な先住民社会が加速度的に破壊されてい ることや、グローバル経済の圧力にますます抵抗せざるを得なくなっていることなども描いています。グローバル化 は、新しい資源、拡大し続ける成長、新技術、文化の均質化、遠隔企業統制の必要をもたらしました。ノーバーグ= ホッジは最新版の序文で、「人類が直面している中心的根本的問題は、歪んだ経済優先が、他の考慮事項全てを凌駕 するまでになってしまったということです」と書いています。 グローバル経済は、「私たちを取り巻くあらゆる世界、つまり人生そのものさえ商業化してしまうテクノ経済シス テム」であると、彼女は続けます。「味と食習慣は均質化し、心も均質化しています。私が最初にラダックに行って から40年の間、グローバル市場と郷土伝統との間に葛藤が続いており、激化しています。けれども、ラダックがいか に優れた点が多いか、という気づきも広がっています。自立、社会的調和、生態学的バランス、霊的洗練さ、は本物 であり、彼らの価値はますます評価されています」 原著が最初に出版された頃には、ノーバーグ=ホッジは、異常なまでのグローバル経済は、地域的にも世界的にも 抵抗する必要があると主張していました。1990年代半ばに、彼女はテディ・ゴールドスミス、ダグ・トンプキンス、 バンダナ・シヴァなど数多くの著名な活動家と協力しましたが、その努力については最新版に新しく加えられていま す。彼らの目標は、グローバル経済に対抗する効果的な国際運動を構築することでした。共同作業は最終的に、グロー バル化に関する国際フォーラムの創設、多くの公開討論集会、世界各地の抗議活動に結びつきましたが、1999年世界 貿易機関形成会議を閉鎖に追い込んだシアトルでの蜂起は名高いです。 現存する美しい文化を発見し、最終的には窮地から救ってくれるかもしれない新たな運動の知的リーダーのひとり であることから、ノーバーグ=ホッジは、この本への賞賛と信頼に相応しい人です。彼女の意識と行動は、毎年、先 住民ラダックと共に過ごし、彼らが継承しようとしていた見事な生活様式を経験した年月に根ざしています。彼女は 次のように書いています。私たちは忘れていますが、「 終わりのない経済成長と物への耽溺は、精神的、社会的貧困 であり、文化的活力の喪失です」。ラダックには、生れながらの絶対的な権利として、心の平穏や生きる歓びを大切にする人々がいます。私はそのコミュニティと、そこでの密接な関係性が、いかに人間の生活を豊かにするかを見て 来ました、物質的富や技術的精巧さなど足元にも及びません。私は別の方法が可能であることを学んだのです。
ジェリー・マンダーは作家で活動家です。彼の著書には、「資本主義論文:古くなったシステムの致命的欠陥 (Counterpoint、2013)」があります。
300 : Jan/Feb 2017
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