ある種の希望
人間性についての楽観的な考えがジェーン・マクナミー (Jane MacNamee)を勇気づけます。
翻訳:浅野 綾子
Humankind: A Hopeful History
仮訳:人間~希望に満ちた歴史
ルトガー・ブレグマン著 ブルームズベリー出版 2020年。 ISBN: 9781408898932
ホッブズを信じるべきか、それともルソーを信じるべきか。私たちは生まれながらに 自己中心的なのか、それともやさしさを持つ者として生まれついているのか。何世紀 にもわたって人間性についての理解に重要な問いとなってきたものが、ルトガー・ブレグマンの革新的アプローチの出発点です。ブレグマンは主張します。今こそ「新しいリアリズム (new realism)」 の時なのだと。現代社会をいまだに下支えし、人間不信の勢力を不滅にしている、ホッブ ズにはじまり確立された考え方に挑む時なのだと。つまり、今こそ「この社会を逆立ちさせる時」。ブレグマンはそ う言うのです。
『De Correspondent』 ニュースサイトで働き、多くの専門分野で緻密な調査を行ってきた絶頂の 7 年間ですが、ブレ グマンの基本的な考え方はシンプルのようです。「ほとんどの人たちは、心の底ではかなり良心的だ」性善説を擁護 するにあたり、特に権力側の人間の懐疑主義に会い、あざけりに会うことさえ覚悟しながらも、くじけることはあり ません。「人間にはやさしさが深く刻みこまれていると信じることは、感傷的でもナイーブでもない。逆に、人と人 との調和や寛大さを信じることは現実的であり、勇気のいることだ」 もちろん、人間のやさしさを擁護するブレグマンの前には、山となって積み上げられていく反対説の文献や研究が 多数存在しています。いくつか例をあげれば、マキャベリ (Machiavelli)、ウィリアム・ゴールディング (William Golding) 作の『蠅の王 (Lord of the Flies) 』、 ギュスターヴ・ル・ボン (Gustave Le Bon) による『群衆心理 (Psychology of Crowds)』、スタンレー・ミルグラム (Stanley Milgram) のような社会心理学者の研究成果などが あります。これらすべては、文明という薄っぺらな表面をこすってみればその下にある一切の地獄が解き放たれると いう中身のない理論を、さまざまな表現方法で支持します。ブレグマンが示唆するのは、この理論を最有力説として 受け入れることにより、「ホモ・パピー (Homo Puppy)」 (ブレグマンいわく)の子孫として私たちに生まれつき 社交性や友好性がそなわっていることを支持する、重要な証拠を見落としてしまうということです。 これに対して当然持ち上がってくるのは、ホモ・パピーがそれほど友好的なら、いじめ・虐待から人類に対する最 も忌まわしい犯罪まで、一方で幾度となく繰り返される残虐な行為がどうして可能なのかという問題です。その真実 は、人間が善か悪かというわかりやすい答えではなく、人間性の逆説的な性質という形で現れます。 私たちが身につけている、人間の社交性には悪い面があるということです。
(以下略)
本記事は今月号の記事です。全文は、11月末までに定期購読いただくと、お楽しみいただけます。
0コメント