場所に根ざして家族になる

教育者や学生による再生力のある未来の再想像を後押しするようデザインされた画期的な教育手法をオーストラリア人研究者のグループが共有します。

翻訳:佐藤 靖子

 じっと耳を傾け、じっくりと見て!先住民族の物語は、私たちが自分たちの場所、私たちの世界を見、聞き、感じる助けとなり、生気に満ちておしゃべりな、生きている自然の姿を見せてくれます。

 誰もがどこかに土着する祖先を持っています。そして誰もが自分たちの場所と意味のある関係を結ぶ能力を持っています。私たちみんなが生活し働いている場所において生きている土地、生きている水、そして伝統的知識を持つ人々の存在を認めることは、私たちの倫理と価値観を示すことであり、私たちの風景の中に、文化的、歴史的、現代的な意味の層が、丸ごと見える形で存在することを思い出させてくれます。

 6 万年に及ぶアボリジニの科学から学びを得、環境課題に関する大きな問題について熟考することで、私たちは一連の研究を実施し、先住民族の場所に根差した方法論「家族になる (Becoming Family)」を作り上げました。私たちは「場所に根差した先住民族の方法論と学びの共有 (Sharing a Place-based Indigenous Methodology and Learnings)」という研究論文を 2020 年 6 月に学術雑誌の「環境教育研究 (Environmental Education Research) 」で発表しました。

 研究チームにはオーストラリア西部キンバリー地域のマトワラ (Martuwarra) フィッツロイ川のニキナ・ワルワ (Nyikina Warrwa) 族 1 人とパース地域のヌーンガー族の 2 人がいます。そして、私たち一人ひとりが、それ以外の場所に土着の祖先を持っています。メンバーの中には、このプロジェクトにおいてある意味で、人生の大半のことについて学び共有してきた人もいます。結局それは関係性の問題に尽きるのです。この関係性が感情、意味、そして人と人との間、人以上のものと全てのものとの間における思いやりの倫理を作り出しています。

 私たちのいう学びのプロセスは、場所に根差しており、メンタリング、分かち合い、相互的な学びを通じて用いられます。それは時のサイクルの中で続く過去と現在と未来を包含しています。私たちが一つになり信頼と尊重の気持ちを培えば、私たちは知恵を結集することで自分たちの場所との関係、お互いとの関係を深め、家族になることができます。この家族は地球規模のネットワークに広がります。私たちは他者を求め、他者は私たちを求めているからです。母なる地球および生きている水との連帯のダンスの中で、私たちはもう一度人間として夢見ることを学びます。

 私たちの取り組みの基礎は協力調査の形をとります。これはジョン・ヘロン (John Heron) とリサージェンス・エコロジスト誌寄稿者のピーター・リーソン (Peter Reason) により開発された循環型の学習法で、関与する全ての人が共同研究者であり共同被験者となります。この手法は感情、経験、熟考、概念、慣習など、場所について学ぶ手段を促進します。そのプロセスは生きている場所の経験から始まり、活動的で想像的な知を形成します。この経験に基づく知によって詩や歌、ダンス、視覚芸術といった思慮深い、創造的な学びの基礎が築かれ、表象的な知や様式の知が形成されます。議論や批評、説明を通じた経験や熟考に関する概念的な学びがそれに続きます。何千もの世代にわたり獲得されてきた、特定の場所と生態学との関係について豊かな概念的な知識を有する現地の先住民族の言語を学ぶことが、ここで役立ちます。そこから生まれた慣習はスキルに根差して表現され、繰り返されるサイクル全体を通じて発展します。参加者が一旦この循環プロセスに慣れてしまえば、学びの方法は深く浸透し、さらにサイクルが起こり、生きた経験が豊かに深くなっていきます。その慣習は探求の人生を生きるという姿勢からなっています。

(以下略)

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リサージェンス & エコロジスト 日本版

リサージェンス誌は、スモール・イズ・ビューティフルを提唱したE.F.シューマッハらが始めた社会変革雑誌で、サティシュ・クマールさんが主幹。英国で創刊50年、世界20カ国に読者4万人。環境運動の第一線で活躍するリーダーたちの、よりよい未来への提言で、考える糧を読者にお届け。また、詩や絵などのアートに溢れているのも特徴。

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