幸せの自転車

パリではサイクリングがニューノーマルになっているようだとマット・ケンダルが伝えます。

翻訳:浅野 綾子

 世界中の数えきれないほどの町がコロナウィルスの流行拡大をおさえるために足早にロックダウンを実施して、世界のいくつかの大都市では市民がいたるところで見慣れない光景を目にしました。いつもは騒音とガスにあふれる通りが一変して、これ以上ない幸せを感じられるような静けさに包まれ、空気は清浄になり、木々の葉がこすれあう音や多くの場合耳をつんざくような鳥のオーケストラの音楽が聞こえてきました。自転車競技の元世界チャンピオン・金メダリストのクリス・ボードマン (Chris Boardman) が言うように、まるで自動車が使われなくなって、世界が 70 年前に戻ったようでした。

 つかの間、道路は人々のものになりました。あまりにも多くの人たちが歩いたり自転車に乗ったりしていることに背中をおされたのか、もっとありそうな理由として、ソーシャルディスタンスのために徒歩やサイクリングでの移動を優先するようにという WHO の専門的ガイダンスに従ったのか、多くの都市では歩道や自転車用道路を迅速に敷設する計画を立てはじめました。驚異的な速さで実行した都市もありました。ベルリンでは 14 マイル(約 22.5 キロメートル)の自転車用道路が事実上ひと晩で工事されました。

 パリも迅速に動きました。4 月後半、アンヌ・イダルゴ市長はパリに 650 キロメートルの「ポップアップ自転車道(コロナピスト)」をつくることを公約。他の多くの都市と同じように、パリにも選択肢がほとんどありませんでした。毎日およそ 1 千万人の人々がパリの公共交通網に詰めかけるといわれていますが、ソーシャルディスタンスの対策下で利用者許容人数はたった 200 万人に減少しています。イダルゴ氏にとって、このコロナピストは実際に役立つだけでなく、呼吸器感染症のひとつの大流行が別の感染症に置き換えられないように確実にする手段でもあります。交通渋滞に巻き込まれることでよく知られる市の主要道路が閉鎖されるのにともない、およそ 1 千キロメートルにわたるガードつきの自転車用道路がここ数年でつくられました。

(以下略)

マット・ケンダル (Matt Kendall) はザ・エコノミスト・グループで電気通信主任編集長。熱心な都会のサイクリスト。


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リサージェンス誌は、スモール・イズ・ビューティフルを提唱したE.F.シューマッハらが始めた社会変革雑誌で、サティシュ・クマールさんが主幹。英国で創刊50年、世界20カ国に読者4万人。環境運動の第一線で活躍するリーダーたちの、よりよい未来への提言で、考える糧を読者にお届け。また、詩や絵などのアートに溢れているのも特徴。

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